LA - テニス

07-08 携帯短編
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---向かい



「ゆいー」
「……もう来んな!」

おーおー、そんなにギスギスせんでもええじゃろ。折角の可愛い顔が台無しじゃ。
そう何度も言うてはおるがゆいは全く聞く耳持たん。これじゃけー最近の若い子は…
俺の言葉に耳も貸さんと足音を立てて歩くゆいを俺もまた懸命に、ひたすらに追う。
まあ理由は…敢えて言わんでも分かること。けど、敢えてゆいだけには毎回伝えとること。

「その願いは聞けんのう」
「願いとかじゃないし!」
「命令でも聞けん。すまんなあ」
「謝る気ないなら最初から謝んな!」
「気がないわけじゃないぜよ。いつも言うとるに。俺は――…」

「ゆいが好きじゃけー」て続けるつもりが、振り返ったゆいが阻止したもんで言葉にならんかった。
こういう時じゃないと振り向かんとか納得出来んけど、俺に触れてくれるんはまあ嬉しいことじゃろ。
ちょい強引な考え持って前向きに。じゃないとコイツは手に入らんと、俺はちゃんと知ってる。
少なくとも本気で嫌われるまで…そうなるまではそんな考えで挑んで行かんと意味がない、て気付いとる。

「もう何も言うな!」
「それは無理じゃろ」
「アンタがその余計なこと言う所為で私がどんだけ苦労を…」
「最近は公認になったじゃろ?こっちも手は――…」
「煩い!」

おーおーじゃけど怒った顔も俺は気に入っとるぜよ。そう丸井に話したら変態かて言われたがのう。
まあ、変態は言い過ぎって話なんじゃが。何ちゅうたらええんじゃろか…恋は盲目ってやつじゃ。欲目しかなか。
ここまで手荒く手酷く扱われちゃおるがそれでも気に入っちょるんじゃ。不思議じゃのう、ミステリーじゃ。

「そうカリカリしなさんな」
「誰の所為よ!」

んー…俺の所為じゃろな。ま、それも気にしちょらんがな。

最初は普通じゃった。クラスメイトじゃなか、単なるクラブメイトとしてちょっと顔見知りくらいから始まって、
会話は適度に適当に交わす程度。かといって仲は悪うない。笑って話とかするくらいのもんじゃった。最初は、な。
それがある日、本当に瞬間的に切り替わったんじゃけど…どうやら彼女はそのスイッチが理解出来んようで。

切り替わったものを元に戻すとか出来ないもんじゃけー追うしかない。コレ性分なり。
だからこうして帰り道、邪険にあしらわれながらも彼女の横をキープしとる。ついでにまあ…いつものことを言うんじゃ。

「俺の所為で怒らせてすまんなあ」
「謝る気ないなら最初から謝んな!」
「冷たいゆいも好きじゃよ」

理由なんかない。ただ好きだと思って告げればキレられる、と。
まあ、俺も男じゃからのう…そこそこヤマしい気持ちもあって言うとって、そんなのを含めて付き合いたいんじゃよ。
理由はないがきっかけはあって、そこから切り替わった「好き」っちゅう気持ちも嘘じゃなかし。事実じゃし。
けどゆいはそれを受け止めてくれん。ま、その理由もまた俺は知っとって攻めるんじゃけどな。

ちょい強引な考え持って前向きに。じゃないとコイツは手に入らんと、俺はちゃんと知ってる。
少なくとも本気で嫌われるまで…そうなるまではそんな考えで挑んで行かんと意味がない、て気付いとる。

「アンタねえ…」
「ぴよ?」
「誤魔化すな」
「誤魔化す?そういうゆいは…ようはぐらかすな」

お前さんは、怖がりじゃ。勘も悪うないから余計に怖がりさんなんじゃろ?
今は適当に軽いカンジで俺が言うとるから反論出来る余地はある。じゃけど、もし俺が違う態度で挑めば――…

「誤魔化す必要なんて、何もないよ」

あっさりと、サラリと言い退けて歩く彼女に湧く感情はやっぱりプラスアルファーを含む「好き」っちゅう感情じゃ。
強い眼差しで挑んで、だけどきっぱりとした拒絶を含みながらも最後までの拒絶はせん。
それが俺には勘違いだとしてもそう読み取れるもんじゃから挑むっちゅうことを、ゆいは知らんようじゃ。

くすくす笑うて隣を歩けば気に入らんのか速度を上げよる。それでも追いつけんスピードじゃなか。
だから負けずと追う。それがまた気に入らんようじゃけど、そんなのは俺には関係ないことじゃけーただ追う、鼻歌混じりに。

「ちょっと…何処まで付いて来るつもり?」
「んー地球の果てまでかのう」
「私、果てまで行くつもりない」

この冗談も通じとらん風味な返事がたまらんて言うたらどんな顔するじゃろか。
何でじゃろか、俺はマゾじゃなくてどちらかと言えばサドの部類じゃ。それなのに今やられよんのは確実に俺で。
それでもコレがあんま嫌とか感じんのはやっぱ…プラスアルファーを含む「好き」っちゅう感情の所為、なんじゃろかのう。

「例え話じゃ。俺はゆいが逃げる言うんじゃったら地球の果てまで――…」
「追わんでいい!」
「……プリッ」

この湧いて来るに至る感情は、果てることがないんじゃろか。ここまで来たら自問自答してしまうな。
早歩きで追うこと数分。そろそろゆいの家に到着してしまう場所にまで到達した。タイム、リミットじゃ。

「ほんじゃ、気を付けて帰りんしゃい」
「……」
「また明日、学校でな」

流石に玄関口まで追うようになったら警察沙汰になりかねん。だからいつも追うのはここまで…
彼女の家の手前、門口を曲がる手前をタイムリミットとして利用しとる。今の俺にとっては此処が地球の果てじゃ。

この場所で解放された彼女は当然、俺を見ることなく門口を曲がって…ほんで姿は忽然と消えてしまう。
まあ…俺がそこから顔を出せば背中くらいは見えるんじゃろうけど、そんな未練がましいことはせんて決めちょる。
背中なんぞもう見飽きてしもて、そんな背中を見せられた日には…俺はまた横に並びたくなるじゃろう。
それくらい、どうしようもない気持ちが彼女には湧いてきて、止まらん。消えん。無くならん。と来た。

……人は不毛じゃと思うじゃろか。こんな俺の想い。
半ば病的だと思うじゃろか。俺はそうは思わんのじゃが…人は、彼女は、分からんとこ。

ついさっき歩いた道をまた逆戻りしながら考えることはいつも同じ。明日はどう攻めるべきじゃろか、と。
ゲーム感覚で楽しんどるわけじゃないが、そんな風にシュミレーションを重ねるあたりが道化師といったとこじゃろか。
可哀想に、俺に魅入られたんが運の尽き。けど、受け入れたんならそうは思わせんようにしちゃるけど。

どう出るんじゃろか、アイツは…それだけが俺が読めん彼女のテ。



「おはようさん」
「……おはよ」
「もうちょい愛想良うしてもええじゃろ」

今日も朝から待ち伏せること1時間。ベタに時間ズラされても平気なように早うか待つ俺は健気とでも言うべきか。
勿論、そこそこ配慮して門口から離れた場所で待ち伏せて、当然、通学路になるんじゃけーゆいはそこを通るしかない。

「アンタ…本当にストーカーみたいよ」
「おーありがとさん」
「褒めてないんだけど」

ストーカー…ストーカーな、うん、それは間違いじゃなかけん、そう呼ばれてもええ。しゃーない。
でも「犯罪クラスまで持ってくようなことはせんから安心しろ」て、何気に言うたら「その時は警察に通報するから」て。
何かあった時はもう遅いじゃろて。声を堪えて笑いを噛み締めよったらゆいもソレに気付いたらしく溜め息吐いた。

「……早めにストーカー対策取らないと」
「何じゃ、俺を正式に彼氏にするか?」
「んなこと言ってない」

更に大きな溜め息吐いて、歩調を上げて歩き始めるゆい横。やっぱ此処じゃなきゃ落ち着かん自分。
人は不毛と思おうとも俺は構わんことで、今日も必死で次のテを先のテを考えながら横をキープして歩いていく。

「冷たいお前さんも好きじゃよ」

何度となく口にした言葉を今日も吐く。負けずと溜め息吐かれて、その溜め息ですら愛おしいとか変じゃろか。
ちょい強引な考え持って前向きに。じゃないとコイツは手に入らんと、俺はちゃんと知ってる。
少なくとも本気で嫌われるまで…そうなるまではそんな考えで挑んで行かんと意味がない、て気付いとる。

――そう思わせる原因は、何処にある?
それは企業秘密じゃけー教えられんけど、心で囁いた自分にそう説いた。



-向かい風-


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