LA - テニス

07-08 携帯短編
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---向かい



「凛」て呼ばれると凄く気持ちいいから何度も呼ばせてみた。
他のヤツはダメなんだけどな、今、ゆいに呼ばれると凄く気持ちいい。
自分の名前が好きだから呼ばれると嬉しい、とかじゃない。
ゆいに呼ばれると嬉しいっていうことに…最近気付いた。

「ゆい」
「どした?コバー」
「凛て呼べ」
「あーはいはい。どうしたの凛」

ほら、やっぱ凛って呼ばれると気持ちいい。もっと呼ばれたくなる。
声がいいんだろうか。それともこう…雰囲気的なものがいいんだろうか。
兎に角、ゆいに呼ばれると心地いい。今までにない感覚。

「ちょっと…何か言いなよ」
「んー」
「おいおい、凛ちゃーん?」

「ちゃん」は邪魔。凛って呼べばそれでいい。
何だろうな、凄い不思議なカンジもする。俺、凛って呼ばれ慣れてるのに。
ま、俺の名前だし当然だよな。でも、別のヤツに呼ばれるのは嫌いだ。
しかも女限定。猫なで声っていうのか?そんなんで俺の名前を呼ぶんだ。
多分、それが何よりも気に入らなくて気持ち悪くて嫌いなんだと思う。

「凛、て呼べよ」
「てか呼んでるし」

でもゆいは違う。そんな声で俺を呼んだりはしない。
あーだからか。呼ばれても不快な思いはしない。むしろ呼ばせたい。
でもコイツ、気を許すとすぐに「コバー」て呼ぶ。平古場の「古場」だけで。
それも勿論、嫌とか思ったことはないけど…何だろうな、俺難しい。

「ゆい」
「だから何さ」
「俺、何か難しい」
「はあ?」

んーつい最近までこんな感情は無かった気がする。普通に友達だし。
クラスメイトとして仲良くしてて、それが結構話合って気が合って。
面白いなーから始まって女では唯一、仲がいいと思う。これは本当に。
他のヤツは特に興味なくて、話くらいはするけど顔と名前は一致しない。

「今、ゆいについて考えてた」
「……意味分かんないんだけど」
「おー俺も分からない」

それが一体何なのか、簡単に分かったんだったら苦労はしねえか。
てか、もうこれ以上は考えるのが面倒になった。
空青いし、天気いいし、今は授業中で、何故か仲良くサボりで。
もうそれだけ分かってりゃいいかーみたいなカンジになった。

「とりあえず枕くれ」
「んなもんあるかい」
「だったら膝貸して」

コンクリートに自分腕枕じゃ痺れるし痛い。
丁度いい具合にあるゆいの膝だとイイ枕になりそうな気がする。

「アンタ…微妙にワガママ満載だね」
「そうか?」
「むしろセクハラ?」
「何でもいいから貸して」

そう無理矢理にお願いしてみたらゆいは溜め息吐いて貸してくれた。
つーか、溜め息とか吐かなくてもいいと思う。減るもんじゃないし。
セクハラもしなけりゃ、変なことは一切しないって心から誓えるぜ俺。

ペタンって座ってたゆいの膝にポスッて自分の頭を置いてみる。
高さは丁度いいし、強度も悪くない…って強度とは言わないか。まいいや。
で、体に伝わるコンクリートの冷たさと、膝枕のぬくもりがやけにマッチする。

「おー寝心地最高」
「そりゃどうも」
「コレ、俺専用の枕決定」
「はあ?」

……今日はやけに変な疑問擬音出すな、ゆいは。
まるで俺が変なこと言ってるみたいじゃん。別に変なこと言ってねえよな?
だって枕は大事だろ。安眠出来るかどうかは枕に掛かってるわけで。
そんな枕に選ばれたゆいは光栄に思えばいいと思う。
あ…光栄っていうのも変だな。でもま、言葉選んでたら面倒になって来た。

「コバーってよく分かんない存在だね」
「だから凛て呼べって」
「あー凛凛凛…て何で急に?」
「何となく心地いいから」

そう素直に言えば今日三度目の「はあ?」を貰った。
逆に俺が「はあ?」て言いたいんだよな。その辺の感覚的には。
名前呼ばれると心地良くて、気持ちよくて、でもそれは今のとこゆいだけで。
これから先、同じ感情を持てる女も出てくるとは思うけど…どうだろ。
それを考えるのもまた面倒になって来た。睡魔も来つつあるし。

「本当に凛ってよく分からないや」
「んー俺も分からない」
「あ、眠くなってる」
「あーだから寝させて」

それだけ言って目を閉じれば、ゆいは何も言わなくなった。
あー俺がお願いすれば黙っててくれるのかーて思ったら新鮮な気持ちにもなった。
俺の周り、やけにしゃべる女が多いんだよな。煩くて仕方ない。

「……おやすみ」
「んー」

響いた最後の言葉にとりあえず返事。
その時、急に風が吹いたと思えば前髪が何処かに攫われた。
デコ全開になった所為で陽射しが眩しくて…うっかり目を開けた時に見たゆいの顔。
優しそうに笑ってた。自分の前髪をうっとおしそうに掻き分けながら。
あーこんな顔するんだ、て思った。だから安心してまた目を閉じた。

気まぐれにその後も風は吹いてたけど、もう気にならなかった。
デコ全開で陽射しもそこそこ眩しかったけど、それも気にならなかった。
多分、目を開けたならゆいはきっと優しく笑ってるだろう。
そう思えば…風なんてどうでも良くなった。



-向かい風-
気持ちに気付かないコバー。よく考えたら初書き。
次は回想ちっくに夢見たちっくに進める予定。


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