LA - テニス

07-08 携帯短編
15ページ/80ページ


---のメロディ。



覚悟…覚悟ってどんな覚悟が必要なんだろうか。検討も付かない。
殴られるとか蹴られるとか、そういうDV的要素は木手くんにはないと思う…多分。
となると、色々と心構えをしておくように。という意味なんだろうか。
でも、ハッキリと「君を避けていたのは事実です」と言われたのはショックだった。
これ以上にショックを受ける言葉もないと思うから…うん、構えよう。

「聞きますか?」

そう聞かれたから静かに頷いた。聞かないと分からないから。
だって、私の何かが悪くて木手くんがおかしくなった。原因は全てにおいて私。
改善すべきも私で…そうすれば木手くんは元に戻る。
……怒鳴られるのもゴーヤ食べさせられるのも嫌だけど。
それでも、あからさまに避けられるよりはまだいいよ、ね…うん、多分。

「覚悟はいいですか?」
「……そう何度も確かめないでよ」
「そうですね。ですが言う方にも覚悟がいるのですよ」
「……そか」

何を言われるんだろう。何のことを指摘されるのだろう。
こないだの部誌の内容かな?それとも晴美ちゃんのタオル雑巾にしたのバレた?
それとも…田仁志くんの大事なお菓子(賞味期限切れ)を勝手に捨てたのバレた?
しらばっくれたけど…田仁志くん暴れたんだよね。物凄い勢いで。
よくよく考えたら私、マネージャーとしてまともなことしてないな…
あ、つまりはマネージャー解雇の通達なのかな。それは…確かに覚悟いるかも。
通達する木手くんも、通達されちゃう私も。結構…楽しかったのに、な。

「うん、ドーンっと言っちゃって」
「そうですか?なら言わせて頂きます」

今年が本当に最後で、ちゃんと皆は全国への切符を持って来てくれて…
本当に最後まで一緒に皆と進んで行きたかったのにな。

て、色々と巡る思いが今の今まであったはずなのに、急に消えてなくなった。
今あるのは…頬を撫でる潮風と、目の前に見える黒と、温かなぬくもりと。
何だ、一体、何だろう。風が、笑ってる。頬を撫でながら、笑ってる。

「どうも俺は君が好きになったようです」
「は、はい?」

……木手様、今、突拍子もないこと言いませんでした?
えっと…さっきまで話してたのは比嘉中でも有名な木手様でしたよね?
冷たい態度が素敵、なんて言われている木手様でした、よね?

「どうしてでしょうね。君はただの天然ボケです」
「は、はあ」
「唐突に雲の流れを気にしたり、空ばかり眺めていたり…」

確かに、おっしゃる通りだと思います。ただ、自分では天然だとは思いませんが。
ただ…どうしてか?なんて聞かれても私には返答出来ません。
そういう感情の細かな部分までは木手くんじゃないから分からないです。

「それでも…」
「……はあ」
「急に心が告げたんです」

えっと、この場合はどう返答していいのか、さっぱり分からないんですが。
「……今、何か聞こえましたか?」て聞いた時、心が告げたって…
そうは言われても私が告げたわけではなくて…木手くんの心で。

でも、どうしてだろう。どうしたんだろう。何処かで何かの音が響く。
バクバクって。耳元で、それこそ木手くんに聞こえてしまいそうなくらい、
大きな音で私を圧倒するくらい響いて――…

「想像と、合ってましたか?」

全然違いました。
でも言葉には出来ずに首だけ振った。

「覚悟、したはずですよね」

違う意味で覚悟してましたが。
その覚悟も全く意味を為さないものになりました。

「……すぐに返事を、なんて言いません」

返事、返事…ってその、お付き合い、とか?
余計に心臓がバクバクし始める。異様なほどにバクバクしてる。

「全国へ行く前に返事を下さい」
「……はい?」
「猶予はあと1週間、ですね」

木手くんの言う「すぐ」と「猶予1週間」…
私とは明らかに感覚的なもので食い違ってはいるんだけど。
でも、私の心も告げてる気がする。バクバクして、それは止まらなくて。
勘違いって可能性も無くもないけど…心は正直でその勘だけは正しくて。

「木、手、くん」

うん。きっとその猶予も要らない気がする。
きっと私はこの日を境に木手くんのことばかり考えると思うから。
間違いなく、与えられた1週間後には今と同じ気持ちを言葉にすると思うから。

「わ、私も…心が告げた、よ」

物凄い勢いで心が早鐘を打って告げている。
勘違いかな?雰囲気に呑まれたかな?色々考えるけど告げてる。

「それは…俺と付き合う、ということですか?」

静かに頷けば木手くんの力が少し強くなって圧迫され掛かった。
耳元で響いている音と押し付けられている木手くんの胸から響く音と、
同じくらいの勢いで響いていることがようやく分かった。

「……何笑っているんです?」
「いや…木手くんもバクバクしてるなーって」
「余計なこと言ってるとゴーヤ食わすよ」
「……ごめんなさい」

不味いゴーヤだけは勘弁です。本当に木手くんのは美味しくないし。
でも、久しぶりに聞いた気がした。木手くんの口からゴーヤの文字。
少しだけ…いつもの木手くんに戻ったのかもしれない。

「風が、背中を押してくれましたよ」
「……風?」
「俺の雲は流されやすいようで心配だったんでしょうね」

今度は木手くんがくすくす笑うから、私は小首を傾げてただ呆然とした。
木手くんの雲って何だろう。考えたけど全然分からなくて。
そんななかでまた潮風が優しく吹いた。暖かいような冷たいような。
強くもなく弱くもない風はきっと、雲を運ぶことすら出来ない。
何となく、そう思った。



-風のメロディ-
メロディ関係ないし、と自分自身で突っ込み。
何にせよ、木手夢はこれにて完成ということで。

back
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ