LA - テニス
□07-08 携帯短編
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---向かい風。
最近、どうも木手くんの様子はおかしいと思われます。
平古場くんにそのことを話してみれば「元々おかしい」と言われました。
甲斐くんにも聞いてみたところ「ある意味、普通だ」と言われました。
ある意味、普通って一体…結構アバウトな気がしたけど考えるのを止めた。
今日も沖縄の空は真っ青で、真っ白な雲が行き来してる。
この様子を眺めるのが本当に好きで、此処に生まれて良かったと思う。
「志月ー」
「あ、チィくん」
「まーた空眺めてたのか?」
「うん。そ」
幼馴染みのチィくんが何気に手伝いに来てくれた。
只今、適当に空を眺めつつも洗濯物を干している最中。
晴美ちゃんが今のより大きな洗濯機を買ってくれないもんだから、
本日二度目の洗濯。物干し竿だけは沢山あるから問題ナシ。
ただ黙々と延々と、私は干すだけの作業をしてる。
「たまには仕事もまともにしろよ」
「嫌だな、チィくん。私は真面目に――…」
「真面目とまともは意味違うから」
すっぱーんと一刀両断。結構キツい奴なんです、チィくんは。
だけど仕事を手伝ってくれるし、遅くなったら家まで送ってくれる。
なかなかデキた幼馴染みなのでもあります。キツいけど。
「あ、そだ」
「ん?」
「最近、木手くんおかしくない?」
チィくんならまともな発言をしてくれるだろう。そう思って聞いてみれば…
「あー…」なんて口を濁すような、そんなわけのわからない言葉を発した。
平古場くんはともかくとして、甲斐くんは間違いなく何かを隠してた気がした。
何かを知っていた上で「ある意味、普通」なんて発言をしたと思った。
そして今のチィくんの様子をプラスした時、やっぱり木手くんはおかしいと判断した。
「何、お前、木手のこと気になるのか?」
「あからさまに避けるし、最近怒鳴らないから」
「あー…ま、おかしいかもな」
「チィくんは理由知ってるの?」
「知らなくもない」とか言うから詰め寄ったけど…チィくんは教えてくれない。
額に手を当てて考えるような、そんな素振りだけするチィくん。
「直接…聞けばいい」
「えー不味いゴーヤ食べさせられるよ」
「お前ゴーヤ好きだろ?」
「木手くんのは不味いんだよ」
ゴーヤって確かに苦いものだと思うよ。よく茹でないとダメ。
でも、茹でた後の調理方法で美味しいものになっていくのに…
木手くんはセンスないと思う。初めて食べた時、泣きそうになった。
「……こんなとこで談話ですか?」
噂をすれば影。いつもの腕組みポージングで佇む木手くんがいた。
物音立てずに気配を消して来たみたい。気付かなかった。
沖縄武術を習ってる人って皆、こんなカンジで登場することが出来るのかな。
「おー木手」
「知念くん。平古場くんが呼んでましたよ」
「またダブルス練習か…」
「そうです。では志月さん、後は一人でお願いしますね」
……うーん、今日も怒鳴らない。
やっぱりチィくんの言う通り、自分で聞いてみようと思う。意を決して。
これでゴーヤ出された日には勘弁だけど…うん、頑張ってみよう。
「木手くん!」
「な、何です…」
木手くんだけじゃなくチィくんも振り返った。
チィくん、木手くんの後ろで良く分からないガッツポーズなんかした。
意味分かんないけど、それだけしたら去ってったから放置決定。
とりあえず、木手くんの様子を少し観察してみよう。
「元気?」
「はあ…」
「ご飯食べてる?」
「まあ…」
「最近、ゴーヤ出て来ないね」
「あ、ああ…」
観察、問診結果。
木手くんはやっぱりおかしいと判断しました。
「木手くん、最近おかしいよね」
そう告げた時、浜の方から来たと思われる潮風が私に触れた。
多分、木手くんにも触れて…空に浮かぶ雲にも触れたんだと思われる。
それでも私の告げた言葉は風に負けることなく響いた、と思う。
-向かい風-
マラソン時に向かってくる風に腹を立てた学生時代…
それでも負けずと走った記憶を思い出しながらの第一作。
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