LA - テニス

05-07 PC短編
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泣かれるんは好きやない。
いつも誰かに泣きつかれる度に、吐き気すら覚える。
こんなコト思う俺はあまりにも残酷で、人なんか好きになったらアカンと思うてた。


夏の暑い日。人知れず唇を噛んで悔しさに耐えていた。
誰にも見られたない、情けない姿はあまりも滑稽で笑えた。
全力で、全力でやったハズやのに…残る悔しさ。

――氷帝に敗者はいらねぇ。

宍戸を蔑んだ自分、今度は自分が蔑まれる番。
少なからず、それを予感してた…
最後の最後で惨めちゃうか?
こんなザマでホンマはええハズがない。

「あ、忍足…」
「……誰や」
タオルで隠しとっても、この様子やったらわかるやろ?
今、声掛けたらアカンコトくらい…
自然に零れたキツい口調の自分が、それを物語ってた。
「あの…志月だけど。今から跡部部長の…」
「放ってんか?」
他の試合、冷静に見るコトが出来るはずない。
どうせ、俺には次はない。
勝とうが負けようが、敗者に次はない。
それが氷帝学園やから…
「そういうわけには…皆待って……」
「放っとけ言うてんやろ!!」
ホンマは八つ当たりなんかしとない。
だけど、今だけはそっとしといて欲しい。
その気持ち…酌んだってええやろ?
「忍足……」
「ちゃんと後で行くさかい。今は……」
この悔しさ、アンタにはわからへんやろ?
分かち合いたいやなんて、俺は思ってへんから…
同情も何もいらんのや。
ただ、今の…この瞬間だけは…

「……志月」

俺の言うことを無視して、隣に志月が座り込む。
会場から離れた場所、少なくとも俺らしかいない。
遠く離れた会場で声援が響き、時折、歓声へと変わる。
「……何がしたいねん」
「泣き顔、見てやろうと思って」
「ふざけ……ッ」

大粒の涙を、見た。
表情を歪ませて、必死で嗚咽を堪えるような…

「何でお前が泣くねん…」
「忍足、泣かないから、私…」
代わりに泣いている、とでも言いたいのか?
ボロボロの顔して隣に座って…
代わりに泣くことで意味なんてあるわけないのに。
「私…ちゃんと見てた。忍足…ふざけてたけど…あんなに練習…」
志月はアホちゃうやろか。
俺なんかの為に泣いて、喋れないほどに泣いて…
「私、信じてるよ…」
ジャージの裾を引っ張りながら、すがるかのように。
必死に声を上げて、話そうとしている姿。
「……何を信じとるんやねん」

「忍足に、次あるから…」

何の根拠があるんやろ。
どっからそんなコトが言えるんやろ。
「慰めはいらん」
掴まれた手を振り払った。
崩れるかのように堕ちていく志月の手。
だけど、負けずにまた掴んで来た。
「…離せや」
「…イヤ」
「離せ言うとる!!」
振り払っても振り払っても…
何度でも掴み、その力は増していくように思えた。
「何がしたいねん」

「宍戸が上がれて忍足が上がれないわけない!!」

荒い息遣いに涙声。
必死に泣いて、必死に叫んで、訴えて…
ホンマ、アホちゃうやろうか…

「…忍足…」
「こんタオルは汚れとるさかい…」
目の前の泣き顔の女の子を、抱きしめることで隠した。
泣かれるんは好きやない。
勝手に、泣かれるんは好きやない。
それが例え…俺の為であっても…
「…雑草…」
「……?」
志月の声が振動し、胸に響く。
ジャージ越しにぬくもりと冷たさが染み渡る。
「雑草って…ね、踏まれるごとに強くなるんだって」

「…俺はまだまだ雑草っちゅうわけか…」

踏まれても踏まれても、また生えてくる雑草。
まるで、宍戸のようなモノだと思っていた。
だけどそれは、自分も同じ…

「……上がれるやろか?また、あの場所に」
「上がらないと…許さない」
許さない、ときたか…
「…涙の利子にしちゃ、ちと高こうないか?」
「高くないもん…」
少し顔を上げた志月は、涙でグチャグチャ。
ジャージの袖で志月の涙線を消してみる。
「…ありがとな」

泣かれるんは好きやない。
いつも誰かに泣きつかれる度に、吐き気すら覚える。
こんなコト思う俺はあまりにも残酷で、人なんか好きになったらアカンと思うてた。

「こんなんやったら、ええ」

自分の為に泣いてくれた存在。
ただただ、強く抱きしめて…
初めて、自分も泣くことが出来た。



◆Thank you for material offer psycho-0
御題配布元 CouleuR 綺麗な瞬間 5のお題「誰かの為の涙」


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