LA - テニス

05-07 PC短編
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---音楽を鳴らす



毎日毎日、ハードなスケジュール。
それでも欠かさずに走る姿を目にする。
午前6時と午後8時の二度。部屋の窓から貴方の姿…
晴れの日も曇りの日も、雨の日でさえも。
頑張りすぎて、倒れたりしないのかな?
そんな心配をしつつも、私はいつも部屋の中。
見つめているだけの生活…

「折角のチャンスなのにね」
「…わかってるなら無駄にするな」
##NAME4##ちゃんはそう言うけど、私には方法が見つからない。
声を掛ける方法。会話する方法。応援する、方法…
だから見守るくらいしか出来ない。
少なくとも無事に、私の家の前は通れますように…と。
「ゆい。そんなんじゃ、一生見てるだけだよ」
「一生、かぁ…」
いつか気付いてくれる、いつか知ってもらえる、
それは努力しない私には無理な話。
"いつか"というのは、不安定で不確かなモノ。
そんなモノに頼る私は…なんて愚かなのでしょう。
なんて…弱い人間なのでしょう。

朝は早起きして、夕方は真っ直ぐに帰宅して。
彼一色の生活をしている自分。
それだけ彼の存在が色濃く浸透しているのに。
宍戸亮、という人が…

私のいくじなし、弱虫、勇気ナシ。
鏡に映る自分はいつも冴えない顔ですまなそうにしてる。
変えたい、変わりたい。
強く願っているハズなのに、まだ勇気が持てない。
勇気が、持てないんです…


「ゆい。卵買って来てちょうだい」
「えー…」
母上からの直命令。
明日のお弁当に卵焼きが入らない、と言われ
嫌々ながらも表に出る準備を始める。
こんな時に限って、妹の姿がないなんて…
「安いの、買って来なさいよ?」
「はいはい」
玄関先の時計は午後9時過ぎ。
買い物を言い付けるなら、もっと早ければ良かったのに。
声にならない想いが溜め息に変わる。
「行って来ます」
肌寒い夜の空の下、少し身震いする。
徒歩数分のコンビニまでの距離が憎い。
「こんななか、宍戸くんは走ってるんだ…」
誰に言われなくても、自主トレを続けている彼。
窓越しに見る横顔はいつも真剣そのもの。
その横顔が、とても綺麗に見えて…
気付いたら見惚れている自分がいた。

「いらっしゃいませ〜」
やる気のないバイト店員をよそにカウンターを過ぎる。
お弁当中身の卵焼き、そのための食材を購入するために。
「お客様、お金が足りないんですが…」
コンビニでたまに耳にする会話。
"あらら…"なんて、知らない人だから思ってみたりして。
「えぇ?マジかよ…」
だけど、この声に反応した。
普段なら知らん顔して、通り過ぎていくはずなのに。
「マジで十円足りねぇのかよ。激ダサ…」
振り返らなくてもわかる。
振り返ったら…確信に変わる。
「じゃあ……」
「ありますよ。じゅ、十円…ッ」
横から出て来た私に店員だけでなく、彼も驚く。
「志月…?」
「では、丁度お預かり致します」
彼が買っていたのは、アイスクリーム一個。
トレーニング後のご褒美なのだろうか。
少し…少しだけ可愛らしく思えた。

「サンキューな。まさか、足りねぇとは思わなかったぜ」
「いえ…たまたま宍戸くんだったから…」
「にしても、激ダサだよなー」
彼の片手にはアイスクリーム。私の手には卵。
コンビニの出入り口で二人止まって話、している。
話、出来ている事実が心臓が止まりそうなほど嬉しかった。
「あ、あの…」
「おぅ。心配すんなって、借りた金は…」
「そ、そうじゃなくて……」
"トレーニング大変だね" "無理しないようにね"
言いたい言葉は沢山あるのに、言葉がうまく出て来ない。
「歯切れ悪いぜ?あ…わかったわかった」
「え?」
「お金返さなくていいから送れ、ってね」
平然と、笑いながら勝手な解釈。
勝手な解釈だけど…
「お前ん家、すぐそこの角先だろ?表札のある」
「あ、うん…」
「心配すんな。送ってやるからな」
アイスを食べながら、少し上機嫌の彼。
そんな彼の隣を歩く私も、冷静ではいられなかった。
もう少し、家が遠ければ…そう思った。



◆Thank you for material offer BGMの小箱
御題配布元 CouleuR 綺麗な瞬間 5のお題「その横顔」
◇CARAMEL RIBBON、桐生嵐さんへ捧げます。


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