LA - テニス

05-07 PC短編
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「ゆい!今、帰りか?」
「……姉ちゃんって呼びな、雅治」
「姉ちゃんて呼ばれる年齢でもなかろうに」
「あ?何だって…?」

お、やっぱ怒ったか。女はそこそこの年齢ともなれば、年齢の話は禁句になるんじゃのう。
相変わらずの童顔がウリで不似合いなスーツ姿で、それでも年齢を気にする辺り可愛いモンじゃ。
遠縁らしい親戚の姉ちゃんに会うたのはつい最近の話。俺の家の近くにあるアパートに越して来たとかで。
少し気になってコンビニ張っとったら、これが見事に捕まる捕まる。ワンパターンなヤツじゃ。

「アンタはここで何してんのよ」

そして、この果てしない鈍感さはキタのう。モロにストライクゾーンにおるんじゃけーヤバイ。
年上のくせにそこら辺は全然勘ぐりもせんと、本当に可愛いったらありゃせんな。
昔のまんまじゃ。俺がちっちゃい時に遊んでもらって…密かに気になっとった頃と何ら変わりはない。
――大事な、大事な、俺の初恋の相手。

「ん?買い物」
「嘘つき。手ぶらじゃない」
「欲しいモンがなかけー」

ふーん、くらいの返事で特に気にした様子もなく店内へと入っていくゆいを当然俺は追う。
特にめぼしいものなんかない。もう随分前から見て回っとるし、店員だって不審に思うとるかもしれん。
別に俺自身は気にしちゃないけどな。強盗とか万引きとかが目的じゃないけーのう。
ま、このコンビニでめぼしいものがあるとしたら…この隣にいるゆいくらいじゃ。

「……何よ、何か奢って欲しいの?」
「違うぜよ。ただ…」
「ただ?」
「仕事帰りのスーツ姿の女性が、コンビニで弁当買うなんてベタじゃなー思うて」

おうおう、にわかに頭から角が生え出したぜよ。
でも、そう言われても言い返すことが出来ないじゃろ?事実なんじゃけー。
そうやって店内だからって怒りを抑えよう思うとる姿、可愛らしゅうてしょうがないわ。

「雅治…それ嫌味?」
「プリッ」
「別にいいじゃない。コンビニ弁当でも」
「食生活偏ってしもて肌がボロボロになってもか?」
「う…ッ」

やっぱり女はいくつになっても女の子じゃのう。気にするところは全部ソレ。
ウチのクラスの女共も肌荒ればかり気にしとる。女は大変じゃ、気にするトコばかりで。
ま、アイツらはもうちっと薄化粧にするか、メイクをしなきゃええのにって話じゃが。
それにしてもゆいは…薄化粧で肌も綺麗なもんじゃな。少しは俺の欲目かもしれんけど。

「ココに腕の良いシェフがおるんじゃけど?」
「……アンタのこと?」
「プリッ」

そう。最初っから自分を売り込むためだけに待っとったんじゃ。
よう考えたら近所に越して来たってコトだけで、住所なんかは知らんけーのう。親にも聞けんし。

「何か作ってくれるの?」
「ゆいがお願いするなら」
「じゃ…お願いしよっかな?」
「了解」

なあ、俺は我慢強い方じゃなか。策士がおらんと勝手なプラン組む。紳士がおらんと暴走もする。
警戒せんと俺を家に上げて、何かあった時…そん時は文句は言わせないぜよ?
いつまでも可愛いだけの子供じゃない。可愛い弟みたいな存在でもない。
なあ、俺は…そのことに早く気付いて欲しいと思うとる。ずっとずっと、思うとるよゆい。

「ねえ雅治」
「何じゃ」
「昔みたいにさ、手繋いで行こうか」

隣に居る彼女は、昔と変わらぬ笑顔を俺だけに向けとって。
俺は予想外の言葉にただただ驚いて…きっと間抜けな顔しちょると思う。

「……」

昔は平気で繋いでいたはずなのに、今、こうして繋いでみるとゆいの手は小さい。
やわらかくて、温かくて、距離が近づいたら…甘い香りがした。
軽く鼻歌を歌いながら歩く彼女の横、俺だけが突拍子もない事態に酷く動揺しとる。
詐欺師の異名を持つ俺が、この人を前にすると…ただの子供になる。

……いや、ただの恋する少年になる。



◆Thank you for material offer せつない屋…
御題配布元 Relation 社会人で御題「可愛い人」


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