LA - テニス

05-07 PC短編
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---音楽を鳴らす



最初は気付かなかったけど、これは必死で大人ぶる彼の姿。
頭が良くてカッコよくて。だけど、隠し切れないものは溢れているみたい。
ずっと確信はなかったけど…ある時、偶然にも見つけた。
雑誌の表紙に書かれた名前。ページをめくれば、私の知らない彼がいた。


最初は絶句したけど、徐々に可愛らしく愛おしく思えるようになった。
私の論文を読んで誤字を指摘してくれる、内容の確認をしてくれる。
今は気になる年齢差だけど、それ以上に彼はそんなものを感じさせないものがある。
これはきっと、跡部景吾という人間だからこそ。そう思えた。
私の知らない少しだけ子供の部分の景吾を知りたくて、毎月買ってる雑誌。
それをわざと部屋に置いた。彼が自分の口で言えるように…と。

「……ゆい」

ごちゃごちゃとした部屋の中で響く景吾の声。
言い出しにくそうにしてる景吾の姿、それは見えないけど…
自分から口にして欲しい。自分で告げることで大人に飛躍して欲しい。
私は嫌わない。いつかは無意味になる年齢差なんて気にしないから。

「悪い。騙すつもりはなかったんだ」
「何か隠してるの?」
「あのな……」

景吾らしくない。この歯切れの悪さ。
少しだけ可笑しくて、少しだけドキドキしながら応援する。
"大丈夫、大丈夫だよ"と、成長過程にある背中を撫でながら。
雑誌を見つけるまで気付かなかった。この背中はまだ小さい、ということ。

「俺の年齢…最初に言ってたのと違う」
「うん」
「まだ、義務教育の範囲だ」
正確な数字は口にしないけど、それだけで十分。
日本の義務教育期間は9年間だって、中学までだって、ちゃんと知ってる。
少しだけ遠まわしな言い方だけど、それが精一杯の言葉だと解釈して頷いた。

「よく言えました」

綺麗な髪を撫でて、イイ子イイ子と甘やかしてみる。
こんなのは景吾には合わないかもしれないけど、今の景吾にしたいこと。
背伸びなんかする必要がないって、知って欲しいから。

「言ったでしょ?景吾だから、私は好きなんだよ」

今は距離を感じるかもしれない。それは私も同じコト。
だけど、いつかは大人になり、対等な社会人へと成長していく。
今、私たちの中にある距離というのは、それだけのモノ。
時間が解決してくれて、どうでも良いものへと変化していくことだから。

「……最初から知ってたんだな」
「最初じゃないよ?途中から」
「俺の決心って…かなりダッセーな、俺」

苦笑いをしながらも赤面する彼。いつもと違う一面を見た。
お互いに笑って、より距離が近づいた気がした。

「大学卒業まで七年あるが…待てるか?」

まだ子供なのに、大人びた言葉。まるで、プロポーズのような。
与えられた猶予は長いけど、彼にその気があるのならば…

「七年後、私はオバサンになるわよ?」

"その時もゆいはゆいだから問題ない"
彼はハッキリそう言い切った。穏やかな日差しが包み込む部屋の一角で…



◆Thank you for material offer Litty
御題配布元 Relation 社会人で御題「貴方がどうであれ、私は貴方を好きになる。」
氷帝三年R誕生祭、参加作品



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