LA - テニス

05-07 PC短編
24ページ/45ページ

---音楽を鳴らす



「あ、アレや。あの姉さんが俺の彼女やねん」

皆が見せろ見せろ言うさかい、わざわざ放課後に会社付近でこっそり待ち伏せた。
ホンマは普段の自分とギャップがある言うて、ココに来るんは禁止になっとるんやけど…
皆に合わせるには時間が合わへんし、せやから仕方なくっちゅうカンジで。
大勢でこっそりっちゅうも変やけど…遠目に隠れて彼女を見つめる。
うん。今日もまた一段とべっぴんやで。仕草もまたカッコええ。
「……バリバリ働く女性ですね」
「何つーか、外回りの帰りだな」
「しかも、契約取れたみたいなカンジだCー」
「あの目…タダモンじゃねぇよ」
「ウス」
せやろせやろ、もっと褒めたって褒めたって。
入社したばっかやけど、大学時代のバイトが功を奏しとるとかで優秀なんや。
妬まれ上等でバリバリのキャリアウーマンやっとんねん。ハンパやないで。
もう、何から何まで完璧にしよう思うとるんか、下手したら飲まず食わずで仕事するんや。
仕事一筋、真面目一直線。せやけど、テレビのお笑い番組だけは絶対見とったりして。
「どや、素敵やろ?」
ほんで、毎回毎回テレビ越しに大笑い、時にはダメ出しなんかしてな。
意外とお笑いには敏感でうるさかったりするん。そこがまた可愛らしゅうてな。
夏休みになったら大阪行きたいて、まだまだ先の話やのにハリきっとる。
「ん?何やねん。何俺見とるん?」
めっちゃ視線刺さる思うたら、皆の視線は俺に集中しとるやんけ。
彼女は会社に入ってもうたし…またしばらくは出てけーへんわ。間違いなく。
てか、ジットリ見すぎや。何やのん、その微妙な表情は…

「……何で忍足の彼女なんだ?」

けったいな疑問やな。それこそ劇的な出会いっちゅうんがあったんや!
冬場…そう、雪が降った日や。たまたま部活帰りに通った道に彼女がおったんや。
あんな綺麗な顔した姉さんが近くにおっただけで見てまうやろ?普通。
で、俺も同じ方向っちゅうこともあって、ちょい離れたトコから見とったんや。
パンプス鳴らして、長い髪をなびかせて…ホンマ、見惚れたわ。
見惚れて、ホンマ見惚れてた瞬間、急に彼女がキョロキョロし始めたんで思わず隠れた。
「何かするんや」て直感働いてな。そしたら案の上や。
その場に立ち止まったかと思えば、いきなりポーンってパンプス蹴投げたんや!
これにはさすがの俺も驚いたわ。度肝抜かれまくりや。おわ!みたいな。
そうしたら投げたパンプス、どうなったて思う?側溝にストライクや。ホールインワンやねん。
慌てて拾うたみたいやけど、ドロドロになったんやろな。今度はオロオロしとった。
そこに俺はすかさず登場や!白馬の王子様っちゅうヤツ。
裸足で帰るつもりやったらしいけど雪の日やから辛いやん?
で、色々託けて俺が彼女をおぶって連れて帰ったっちゅう話。それが出会い。

「……キモい」
「思い出し笑いでニヤけてますよ…」
おっと、トリップしてもうたわ。にしても…何やねん、俺はキモくないわい。
ナイスガイやで。つーか、白馬の王子様やっちゅうねん!
「何やねん、折角人が馴れ初め話したろうと…」
「聞きたくもねえ、なあ樺地」
「ウス」
何やて?なら話たらんわい!てか、あんまりべっぴんさんやから嫉妬しとるんやろ。
男の僻みは醜いで?羨ましゅうても譲ったりせえへんけどな。アレ、俺のモンやし。
「にしても、彼女は男の趣味が悪い」
「忍足先輩を選ぶ辺りマニアですね」
「てか、完璧だからこそじゃねえ?そこだけ欠落」
「宍戸言い過ぎだCー」
アホ抜かすなや。俺みたいなええ男、そう簡単に見つからへんで!
確かにちょい年は若いのは気にしとるみたいやけど…並んでも違和感ないっちゅうねん!
年相応カップル、美男美女なカップルやねんからな!
「羨ましいからて僻むなや」
「アーン?」
「大体、お前らが見たい言うたから俺は――…」

カツカツ…とパンプスの音。
着替えんかったんか、スーツ姿の女性。

「あ、やっぱり侑士だ」
「ゆいさん!」
「こんなところで…って、お友達?」
そこそこの大人数で同じ制服で。当然、お友達やと思うわな…
せやけど、コイツらは友達か言うたら俺を古馬鹿にしたヤツらで友達なんかじゃ――…
「そうです。初めまして」
おわ!何や何や?皆気取ってからに、何礼儀正しくしとんねん!樺地まで!
てか、ゆいさんも丁重に頭を下げて、何や名刺なんか出そうとして…
アカンアカン!仕事ちゃうねんから、自分の身分なんかは明かさんでええて!
「ゆいさん!名刺は仕事用やろ!」
「え?別にいいじゃない」
「アカンアカン!コイツらは――…」
俺が外野の存在を否定しよと思うたら、怒られた。何や「メッ」て言われてもうた…
一人ずつに名刺を配って、改めて挨拶して…さすが、礼儀第一のキャリアウーマン。
相手が子供かて妥協なんかないんやな。それもまた素敵やけど…
「宜しかったら、俺のお薦めのフレンチでも…」
「いやだな、跡部さん。彼女だとフレンチよりもイタリアンでしょう?」
「俺、懐石料理の方がいいCー」
「……美味いラーメン屋がいいな」
コラコラコラ!何誘うとるねん!俺の断りナシに…
ちょっと高級店に誘って口説くつもりなんやろ!そんなん絶対許さへんで!
てか、宍戸!ラーメン屋やなんてアカンやろ!いくら金ないからて!

「ごめんなさい。折角だけど…観たい番組あるから。ね?侑士」

せや、今日はゆいさんの好きなお笑い芸人の出とる番組があったんやったな…
断る理由、ちょい残酷やで。俺的にはナイスやと思うけどな。


「また今度ね」を合言葉に彼女は俺の手を引き、アイツらに手を振る。
綺麗な子ばかりが友達なんだね、と特に興味を持った様子もなく帰路を急ぐ。
ああ、綺麗な子よりもお笑い芸人の方が好きなんや、と改めて実感してみたり…

笑いを解する彼女。笑いに敏感な彼女。
これが化粧の下、素の彼女であり、俺の愛する人や――…



◆Thank you for material offer 遠来未来
御題配布元 Relation 社会人で御題「化粧の下の道化師」


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ