LA - テニス

05-07 PC短編
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「珍しいね、休日にスーツだなんて」
「会議よ。その後は接待飲み会」
「休日なのに大変だね」

えっと…確か、昨日の夜も同じような会話をしたよね?いや、間違いなく。
だから手加減してってお願いしたはずなのに、今朝はやけに体ダルいんですけど…嫌がらせ?
大事な会議で、特に大事ではない飲み会がそんなにお気に召されませんでしたか?
いやね、確かに約束しました。今日は精市が来るからゆっくりしようって話しました。約束しました。
それが突然、しかも前日の午後になって急にダメになったのよ。私だってショックよ。

「……怒ってるわけ?」
「仕事だもの仕方ないよ」

穏やかな笑顔でそうは言ったものの、怒っていないとは言わないわけね?
お怒りはごもっともです。私も上司に怒りをぶちまけたいくらいです。本当に、楽しみにしてたから。
だけど、理解してくれている通り、仕方ないんですよ。お仕事大事、生活掛かっています。
コレ首になった日には、私は路頭を彷徨います。餓死します。てか、精市にも捨てられることでしょう。
ね?全てにおいて良いことはないんです。だから…だから!

「そ…そんなに怒んないでよ」
「俺、怒ってるように見える?ゆい」

普段優しそうにしている分、怒らせると絶対怖い。確実に怖い。
年下のくせに、やけに大人っぽく見えても…それでも年下は年下で年相応ってやつで。
それって仕事にヤキモチですか?なんて聞いた日には、間違いなく私は生きていないでしょう。色んな意味で。
それでなくても昨日の今日、もうすでに私の体はガタガタなんですよ?なんて、口が裂けても聞けません…

「見えるから言ってるんだけど…」
「そうだね…多少は怒ってるかもしれないな」
「多少…ですか」

ホントは多少なんてレベルでもなくお怒りモード全開でしょうに、って時間時間!
バスに間に合わなかったら遅刻になっちゃう。会議会議会議…は嫌いだけど、そうも言ってられない!

「本当にごめんね。今度、埋め合わせするから…」
「ふーん。どんな?」
「えっと、うーんと…そうだね…」

刻々と過ぎる時間、お怒りになった精市を宥める時間はごめん、ないみたい。
手っ取り早い方法としては、もうコレしか残されていません!

「精市が決めていいから、ね?」

バックの中に大事なモノを詰めて、携帯電話をポケットに入れて玄関先へ。
昨日、脱ぎ捨てたままのパンプスを履きながらチラッと振り返れば…精市満面の笑み。
それはそれで…怖いんですけど。嫌な予感はするけど…バスの時間が!

「じゃ、考えておくね」
「うん。本当にごめん!行って来ます!」
「行ってらっしゃい」









「た、ただいま…」

心身ともに疲れやらストレスやらを持ち帰って来ました…
何たってこんなに疲れなきゃいけないんでしょう。今日は休日だったんですよ、休日!
しかも恋人怒らせてまでして行った会議が何であんなにも下らない内容だったわけ?
会議の内容「年末の忘年会兼、研修と偽った慰安旅行について」
上で決めてくれて結構!こ、こんな下らない会議に出て、飲み会に繋がったなんて言えない…

「……おかえりなさい」
「あ、精市。ただいま」
「結構遅かったね?大変だった?」

玄関先で何食わぬ顔でお出迎え。遅くなったのに…わざわざ起きててくれてちょっと嬉しいかも。
って、ちょっと待った。昨日は土曜日でお泊り、今日は日曜日だから帰宅。これが決まりだったわよね?
週末のお約束ってヤツだったわよね?あれ?な、何か今の状況とかおかしいんだけど…

「ちょっ…精市、明日は学校…」
「うん。ちゃんとわかってる。準備してきた」
「準備、って…ここから学校行くつもりなの?」
「うん。ご名答」

穏やかな微笑み…癒される。癒されはするんだけど、と、泊まる気?
ここから精市の学校まで結構あるんだけど。近くのバス停からバスとか出てるのかな?
いやいや、むしろ、ここから学校に通ったりして問題とかない?ねえ、どうなのよ優等生の幸村くん!

「何か色々考えてるみたいだけど心配はいらないよ」
「えっと…ホントに?」
「うん。俺を誰だと思ってるの?」

――幸村精市。
ああ、そっか。人望も厚くて、優等生で真面目を絵に描いたような存在で…
でも、中学生には思えないくらい腹黒くて、大人っぽい割には意外と子供らしさもあって悪戯好きで――…

「今夜、埋め合わせしてもらうから」
「……はい?」
「約束、したよね?」

有無を言わせない迫力と圧力…この威圧感からか、逆らう者など一人もいなさそうで。
誰よりも敵に回したくない存在だと思われる。それがこの幸村精市…
相手は微笑んでいるのに、私は笑えない。笑えないくらいに物凄いプレッシャーが掛けられてます。
少なくとも年の差は歴然としてるのに、それでも怖くて文句も言えないんですけど。

「約束、しました…」
「じゃあ行こうか」
「へ?」

脱ぎ捨てたパンプスも整えないまま、カバンも玄関に放りっぱなし。
それなのにそんなのお構いなしで精市は私を引っ張って行く。信じられない力で。

「明日は今日ほど元気に出勤出来ないからね」



◆Thank you for material offer 煉獄庭園
御題配布元 Relation 社会人で御題「スーツの下は戦闘服」


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