LA - テニス

05-07 PC短編
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---音楽を鳴らす



実らないと知りながら、気付きながらも衝動を抑えることは出来なかった。
不思議な感覚をいつも抱いている。会う度に、彼女が笑う度に…
それがまだ未熟な俺の、青果実とも言われても仕方ない程度の恋――…



綺麗で、聡明な人だと知っていた。
だけど可愛らしく、頼りない人だということも知っていた。
笑っているところ、怒っているところ、泣いているところ、俺は見つめて来た。
何も出来なくて…慰めることも出来ずに適当に傍に居たことも多々あったけど。
彼女はそんな俺に、無理やり作った笑顔でいつも言う。"有難うね、リョーマ"と。

わかっていたつもりだった。彼女にとって、俺はまだまだ子供だということ。
彼女に追いつくまでに必要な月日が山ほどあって、追いついた頃にはまた離されていて…
きちんと頭では理解しているはずなのに、どうして諦めがつかないのだろうか。
満月の夜、独り考える。もう、彼女は近くに居ないと知りながら…

若くして、彼女は親元を去った。
俺の知らない男の姿、俺はきちんと見ていた。
身長も声も、身なりも身のこなしも全然違う大人の男だった。
早く、大人になりたいと願った夜だった。

綺麗な月夜に、想いを馳せる中学生が何処にいるだろうか。
先輩たちは俺を子供扱いするけど、日々俺はこうして、毎晩祈っている。
彼女の幸せを、誰よりも幸せになることを、祈ってる――…



「あれ、リョーマ?」
「あ…ゆい姉」
「何やってるの?こんな時間に…」
「…ゆい姉こそ」
「私?ちょっと報告に、ね」

いつも以上に嬉しそうに微笑んで、本当に嬉しそうな顔をしてて…
俺にでもすぐにわかったよ、その理由。幸せそうにお腹なんか抑えてるからすぐに。
だけど、本当に…本当に離れて行ってしまうと知らされた。
わかっていたはずなのに、わかっていたはずなのに、それでも思い知らされる。

「そ。で、どっち?」
「えッ?何でわかったの?」
「バレバレ。ゆい姉もまだまだだね」

どうして…どうしてなんだろうか。
"好き"を止める方法などなくて、引き摺るかのように想っていく。
俺が子供だから?俺が未熟だから?
その答えはいつも見つからない。こうしている間にも、見つかることなどない。

「まだ調べてないんだ」
「ふーん」
「私的には女の子がいいかな。可愛いし」

幸せそうに微笑んで…それを望んでいたはずなのに。どうしてだろう、胸が痛い。
誰よりも幸せを願っているばすなのに。どうしてだろう、見ていられない。
彼女はもう、俺の知る人でないような気がして――…

「でも、男の子でもいいかな」
「……なんで?」
「リョーマみたいな子も欲しいし」



―― 残酷だね。



「……俺、ずっとゆい姉が好きだよ」
「何よ、急に…私もリョーマのことは――…」
「そんな"好き"じゃないんだ!」

犬猫感覚の好きじゃない。家族みたいな好きでもない。友達でも、そんなんでもないんだ。
彼女のいう好き、は俺の求めているものではないんだ。
ずっと、ずっと知っていたのに。欲していたわけじゃないのに…今は、ただ悔しい。

「本当はわかってた。だけど、今は悔しいんだ」
「リョーマ…」
「わかってる。俺じゃ敵わないって、わかってるから…」

外壁の上にいる自分と、その外側で見上げている彼女と。
この距離が縮まったとしても、それ以上に縮まる距離は存在しないこと。
わかっているから、悔しかった。それでも想いを馳せる自分が、何よりも悔しかった。

「……よく考えたら、いつもリョーマがいたね」
「何…急に…」
「私が笑ってる時、怒ってる時、泣いてる時。いつもいた」
「……それが、何」
「優しい子。私の周りにはそんな子いなかった」

穏やかに微笑んで、吐き出された嘘。
見つけたくせに、俺じゃない、全然違う大人な男を…見つけたくせに。

「時々考えてたよ。リョーマがもう少し早く生まれてたなら…って」
「……」
「だけど、今は違う」
「……違う?」

何も出来ずに、だけど傍に居た自分。
力になることなく、ただ傍に居るしか出来なかった自分。
今もこうして…ダダを捏ねているだけの自分…


「もう少しだけ遅く、私が生まれていたならば…良かったのにね」


"有難うね"と告げられた時、俺の恋は終わった。



◆Thank you for material offer 遠来未来
御題配布元 Relation 社会人で御題「もう少しだけ遅く、私が生まれていたならば…」


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