LA - テニス

05-07 PC短編
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---音楽を鳴らす



貴方は、いつまで祈り続けるのでしょう。
この雨の中、降り止まぬ風の中、何を祈るというのでしょう。


「…先輩」

雨の中、濡れながらもただ祈り続ける。
居た堪れなくて…傘を傾けて、雨という刃から彼女を保護した。
前髪から雫が落ち、頬を伝う雫もまた彼女を濡らしていく…
「長太郎…」
「…風邪ひきますよ?」
精一杯、微笑んで。全てを知っているから、微笑むしかなくて…
何も知らない貴方を俺は、あの人のように傷つけたくはないから。
「風邪なんて…ひいても構わない」
彼女の"白い服"はドロドロになって…
彼女が履いている"靴"も汚れて、意味を成していない。

こんな姿…誰が望んでいたというのでしょうか?

呼吸をすれば、白い吐息。
青ざめ、やつれた顔立ちは昔の面影すら薄れて…
「ゆいさんが風邪をひいてしまったら、あの人も心配しますから」
制服を彼女の肩に掛けて、手を貸して、その場から立ち上がらせようとする。
だけど…それを頑なに拒否して、制服が地面へと落ちていった。
「祈らないと…景吾、道が見えないと思うから…」
「ですが…ッ」
「…大丈夫だから」

何を思って、何を考えて…彼女は"大丈夫"だと言うのでしょう?

「…止めたらんといて、鳳」
「忍足…先輩」
苦笑する忍足先輩に…俺は頷くしか出来なかった。
彼女を止められるのは、この人くらいしか…
「志月」
彼女に近づいていく先輩の姿。
ただ見守るだけ…俺には彼女を止める術を知らない。
冷静に考える力も失われて、力ずくでしか、彼女を抑えることは出来ない。
「容態、安定したて。一緒に帰るで?」
「……ホント?」
「お祈り、効いたんとちゃうか」
忍足先輩の優しい微笑みに、彼女は安堵して微笑み返す。
この瞬間、俺はどんなに胸を痛めて…何度目を逸らせばいいのでしょう。
先輩に連れ出されて、ゆっくりと立ち上がる彼女に何を思えばいいのでしょう。
「鳳、お前も来るか?」
「…いえ。俺はこれで失礼します」
忍足先輩は哀しい微笑みを浮かべて、軽く手を挙げた。
彼女の肩を抱き、ゆっくりと歩き始めた二人の背中を眺めることすら苦痛で。

「心配してくれてありがとう、長太郎」

これ以上、見たくないんです…
これ以上、こんな貴方を、見たくはないんです…




「……どうして言わないんですか?」
「アイツの精神、壊したないやろ?」
「わかります…だけどッ」
「俺は医者やあらへん。どうしようも出来へんねや」
「……」
「いっそ…忘れたらよかったんやろけどな」



白い病服は雨に濡れて…
スリッパは足を保護する役割を果たしていない。

愛する人のために祈り続けて…
貴方の下へと帰らぬ事実を知ることはない。

こんなコト…誰が望んだというのですか?
いつまで…彼女を縛るつもりですか?

誰か、教えて答えて下さい…



いっそ、全てを忘れて。あの人の記憶、あの人への想い、あの人に関すること全て――



◆Thank you for material offer CLAYMORE
御題配布元 CouleuR 綺麗な瞬間 5のお題「祈る手」


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