LA - テニス

05-07 PC短編
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---音楽を鳴らす



*「隣の席」続編





"この話の続きがしたいから…部活が終わるまで待ってて欲しい"
柳くんは、私の返事も聞かずに部活に出て行った。


刻々と迫る部活終了時間。
上昇し続ける体温と心拍数は、時間に比例してる。
約束は一方的だけど、破ることは出来ない。
だから私は…校門手前にある木陰のベンチで待っていた。
彼が、ココへやって来るのを…


「志月」
頭上から響いた声、突き抜けるような衝動。
一気に全てが登り詰めたような…そんな気がした。
「待たせてすまなかったな」
「いえ…平気です」
「予定ではもう少し早く終わる予定だったんだがな」
目の前に彼はいて、声が響いているのに…
どんな表情をしているのかも想像がついているのに…
顔が上げられずにいる自分が、少しだけ情けない。
「いつまで座っているつもりだ?」
「あ……」
慌てた。何も考えずに体を起こそうとして…
「おっと……」
柳くんの顎に、頭突きをかますところだった。
素早く彼が避けたから、良かったけど。
「ご、ごめんなさい」
「いや…当たってないから平気だ」
顔を上げた時、微笑んだ彼と目が合った。
優しそうに微笑んでて…無意識に自分の頬に触れた。
きっと、リンゴより赤くなってる。
「とりあえずは歩かないと、お互い帰宅が遅くなるぞ?」
「う、うん」

動揺しているのは私だけ。
柳くんはいつものように平然としている。
平然と歩いて、私だけが取り乱してるのが恥ずかしい。

「意識されると結構言いづらいものだな」
少しだけ前を歩いている彼が、ぽつりと言葉を洩らした。
歩調は次第にゆっくりになって…止まった。
「こちらの道を通ろうか?」
「あ…うん」
少しだけ遠回りの並木道通り。
新緑のイチョウの木々が真っ直ぐに並んでいる。
長そうな直線だけど…きっと短い。
それがお互いにわかっているからか、歩調が遅くなった。
会議室でのギクシャクとは少し違う空気。
言葉を紡ぎたいのは、きっと私も彼も同じだろうと思う。
自惚れじゃなかったら…わかってるコト。
「や、柳くん。あの…」

2年間、ただ会議室でしか接触はなかった。
いつの間にか祈るようになっていた。
また同じ委員会になれますように、今度は同じクラスになれますように、
半分半分で叶ったり叶わなかったり…

「誘ったのは俺だから、俺からの話をしないとな」
私の言葉は、彼の声に遮られた。
その場に立ち止まって、振り返った彼の表情は何も変わらない。
「よくよく考えれば、この3年間、ずっと同じ委員会だったな」
「…うん」
「1年の頃は自分で精一杯で、一緒だというくらいしか記憶にない」
「うん。私も同じ…かな」
「だけど次の年も同じ委員会に志月がいた」
「…うん」
「そして、今年も……」
半分は偶然、半分は必然。
今年だけは期待して、選んだんだから。
「クラスこそ一度も同じにはならなかったが…」
木々がざわめいて、風が、吹いた。
やわらかな風と共に、前にいた影も動いた。
二つの影だったはずなのに…一つに重なっている。

「すまない…回りくどいと最後まで言えない気がした」

手に汗を掻いているのは私だけじゃない。
鼓動がひどく高鳴っているのも私だけじゃない。
影が重なって、初めて知る事実…

「もっと近くに…いつの間にか、そう思うようになった」

長い時間、影は重なっていた。
影すら細くなる頃、ようやく言葉が見つかって…
無意識に回していた手を離した。

「私は、もっと前から…そう思うようになってたよ」



◆Thank you for material offer 煉獄庭園
御題配布元 BERRYSTRAW 学園ラブ2 5のお題「二人の帰り道」


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