LA - テニス

05-07 PC短編
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部活が終わる頃、勝手に部室へ侵入した女の子たちの差し入れが目立つ。
朝から下駄箱に入れられた手紙よりも、確実に気合いが違うのがわかる。
主に跡部さんや忍足さんがメインだけども時折、俺の元にも…
"部活頑張って"や"いつも応援しています"という手紙の中、一通だけ目を惹くものがあった。


「なになに…"お疲れ様です"だけ?」
「うわッ。な、何見てるんですか!宍戸さんッ」
小さなブルーのメモ用紙に書かれた、たった一言の手紙。
適当なモノを千切って書いただけの手紙はこれで数回目届く。
他の手紙は名前とか携帯番号とかメアドとか、きっちり入っているのに。
この手紙だけは風変わりにそれだけの代物。
小さく四つ折にされているだけで、可愛らしさがあるのは文字だけ。
いや…この字でさえ、不器用なほど角ばっている。
「可愛げねぇ手紙だな」
「……そうですね」
たった一言の手紙に、可愛げを求めるのは無理な話。
だけど、なぜか…不自然にも気になる手紙。

よく考えれば、それは俺宛なのかもわからない。
いつも俺の荷物の上にあるけれど、差出人も宛先人の名前もない。
ただ残されているのは一言だけのメッセージ。


だから、こっそりと見つからないように置いた。次の日。
差出人不明の手紙が今日届くとは限らないのに…仕掛けた。

"貴方の手紙は俺宛ですか? 鳳"

返事はなく、少し残念に思いながらも翌日、同じものを置いた。
だけど、この日も返答はなくて…それから毎日置いたある日、返答が来た。

"鳳長太郎さんへ ご迷惑をお掛けしました"

いつもブルーのメモ用紙、一言メッセージではなくて残された言葉。
少し堅苦しい言葉を書いているせいか、その文字ですら堅苦しく見える。
でも何でだろう。妙に落ち着いたような一言の手紙が…やけに気に入っていた。


その日から小さなメモ用紙には、俺の名前と一言メッセージが付いて来た。
相変わらずのメモ用紙に、相変わらずの可愛げのないメッセージ。
"鳳長太郎さんへ 風邪をひかれないように"
"鳳長太郎さんへ 無理はしないように"
跡部さんや忍足さんがもらう手紙なんかとは違う。
自分のことなどは一切ない、俺を気遣うような一言のメッセージ。
次第に思う、誰が書いたモノなのか…どんなコなのか。

"貴方のことを教えて下さい 鳳"

それに対する返答はなく、ただ一言のメッセージは続く。
答えたくないのか、知られたくないのか。
余計に興味が湧いて、気になって、気になって…


「どうしよう日吉…これって恋かも」
「…かも、と言われても知らないです」
「ちょっとくらい、親友に対しての言葉は…」
「鳳。俺は親友は選ぶ」
日吉に相談すれど、意味はナシ。むしろ、冷たい。
自分のことじゃないからって全く興味すら抱いていない様子。
いくら何でも冷たすぎ。人でなし。キノコ頭…は関係ない。
「ちぇッ」
手紙だけの存在でしかないコ。
想像ばかりが広がって、だけど肝心なパーツだけ欠けている。
浮かび上がるのは後ろ姿のみ。振り返りはしない。
「そんなに気になるなら、捕まえれば?」
「捕まえる?」
「そ。張ればいい」


ナイスな日吉の案で、俺は何度も何度もコートと部室を行き来した。
無理やりに日吉にも頼み込んで、面白そうだと宍戸さんも協力してくれて…
だけど見つからない。同時に手紙も…来なくなった。


行動を起こせば捕まるまいと動きを見せない。
手紙の主はまるで、俺の行動を読み取っているかのよう…
「日吉ぃ…」
「懐かないで下さい」
「何で捕まらないんでしょう…」
そんなことを日吉に聞いたところで答えは出ない。
誰も知らない、あの手紙の送り主。
一目見ることも、お礼を直接言うことも叶わない。
大きな溜め息をついた日吉は、うっとおしそうに頬杖を付く。
「この会話、聞かれてたんじゃ?」
冷静な面持ちで日吉はサラリと言い退ける。
その可能性は…否定は出来ない、出来ないけれど。
「もし、そうならば…ですよ?手紙の主はクラスメイトじゃないですかッ」
「……別に、そうは言ってない」
「どうして、そうも冷たいんですか?俺と日吉の仲なのに…」
「そんな仲ではありませんから」
めんどくさそうな顔をして、頬杖をついたままの日吉。
気になるなら自分の目で周りを見渡してみろ、と言わんばかりの態度。
「もしかしたら…この中にいるのかな?」
「さぁね」
日吉の席から360度、回転して教室中見渡す。
クラスメイトが楽しそうに過ごす休み時間。
特に俺たちを見ている人もいなければ、会話を聞いてそうな人もいない。
みんな自分のしたいことをして、短い休み時間を過ごしている。
特にめぼしい人なんかいなくて…やはり偶然だと認識する。
「なぁ、日吉――…」
「俺に相談しても無駄。自力で見つけろ」
日吉はいい加減、うんざりしたみたいで、俺の立ち位置と逆方向を向いた。
しっかりと両耳を塞いで、これ以上は聞きません、なポーズで。
クラスメイトでクラブメイトで第三者から物を言ってくれるのは日吉しかいないのに…
「わかったよ」
俺は仕方なく、その場を離れた。


小さなブルーのメモ用紙に書かれた、たった一言の手紙。
一言だけ書いて、それを千切って折りたたんで俺の元へ。
決して可愛い文字で書かれているわけじゃなくて、でも綺麗な文字。
名前も知らないコからの手紙――…

"貴方が気になって、集中出来なくなりました"




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