LA - テニス

05-06 PC短編
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携 帯 電 話




携帯の番号なんて、必要以上には教えたりはしない。
だから、電話帳のメモリー件数は間違いなく、人より少なかった。


「お。志月の携帯と俺様の、同じ機種だぜ」

たまたま机の上に置いてた携帯を見た跡部が、勝手に私の携帯を手に取って中を見始めた。

「あッ!ちょっと、勝手に見ないでよ!!」

「おいおい。友達少ねぇんだな、お前…」

取られた携帯を奪い返そうと手を伸ばしたけど、その行動は無駄で…跡部は携帯を返そうとはしない。

「ちょっとッ!!」

「まぁ、怒んなって。俺様の番号を登録してやったからよ」

「うわッ!要らないッ!!」

「要らないとは何だ…アーン?」


…そのままの意味だと思うけど…?

だって、私にとっては不必要だから…。


「よし、登録完了。お前の番号も教えてもらうからな」

「えぇッ!?」

私がわめいた時には…時、すでに遅し…だった。
跡部の携帯の着メロが軽やかに鳴り響いた。

「確かに頂いたぜ?」

「勝手に何してんのよッ」

「いいじゃねぇか。志月の携帯番号、誰も知らねぇんだからよ。強行手段だ」

跡部がそう言いながら、登録しているのを横から奪い取ったものの…。

「電話帳にはシークレットコード張ってっから見れないぜ?」

相手の方が格段に上手だった…。

「暇な時に掛けてやるからな。ありがたく思え」

帝王は颯爽と誇らしげな笑いを浮かべて、スタスタと歩き去っていった。



登録された番号。
跡部景吾の名前。
その手は削除することを躊躇って…結局は残されたまま…。



帝王の気まぐれに付き合うつもりも、期待するつもりもなかった。
ただ、削除出来ずに…着信拒否に登録していた。




「…必要ないから…」




その日の夜、二件の不在着信があった。
表示されていた名前は…。

『跡部景吾』

着信拒否にしていたから、不在着信としては履歴が残っていたのだ。
かと言って、私は掛け直すことはしなかった。

不在着信はまた一件ずつ溜っていく…。


「…メール?」


眺めていた携帯にメールが二件届いた。
それを見ると、登録されていない知らないアドレス。
私はそれを開いた。


一件は迷惑メール。
もう一件は…


『着拒にしてるとはイイ根性だな。早く解除しねぇと、お前の家に押し掛けるからなッ』


名前すら書いてなかったけど、間違いなく跡部景吾からのメール…。


どうして…?


またメールが届く。


『今から五分待つ。その間に解除しろ。五分後に電話して取らなかったら、直接、会いに行く』


私は戸惑った。
慌てて何かメールしようと思ったけど、言葉が浮かんでこない…

そうこうしているうちに、約束の五分が過ぎようとしていて…
更に慌てて着信拒否を解除した。

それと同時に跡部からの電話が鳴り響く。

「…もしもし…」

『ホントにイイ根性してんな、お前ッ』

電話越しからでもわかる、不機嫌そうな帝王の声…。

「電話…好きじゃないの。それで何の用?」

『電話されんのが好きじゃねぇから早く言えよ。直接、用件言ってやるのによ』

「え…?」

何が言いたいのか、全くわからない電話に思わず切ろうかと思ってしまう。

『出てこいよ』

「は?」

『玄関の外まで出てこいって言ってんだよッ』

「な…ッ?」

頼んでいるのか、命令しているのかわからない。
だけど、何かが不安になって窓の外を見てみると…
そこには携帯を片手にこちらを見ている跡部の姿。


『降りてこないなら乗り込むまでだ』


それだけ言うと、跡部は電話を切った。
私は着ている服も髪型も気にせずに一目散に外へと飛び出した。


「よぉ」

「…何しに来たの…」

「…お前、電話は苦手なんだろ?」

跡部はそう言って私を見つめていた。

「苦手よ」

「だから来たんだ」


―――意味がわかんない。


「俺が何で志月と話したかったのか、まだわからねぇのかよ」

「わかんないよ」

私も跡部を見つめて言葉を返す。

「俺が必死でアド覚えて、住所調べて…それがどういう意味かもわかんねぇのかよッ」

「わかんないよッ」

「ドンカン女がッ」

跡部に吐き捨てるように言葉を叩き付けられ、私は苛立ちが溢れそうになった。
だけど…無理やり抱き締められて…



「俺の女になりやがれ」



その苛立ちすら一瞬にして消えてしまう程、
跡部は真剣に私を見つめていた。



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