LA - テニス

05-06 PC短編
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日差しの眩しい一時の夏もようやく終わった。
この夏から始まったと思われる恋人たちが、目の前を行き交う。
ひと夏の思い出が、そのまま恋へ恋愛へと変わるなんて素敵だね。ホントいいよね!
前回の雄叫びで気持ちが届いたのか、お陰様で俺の恋も終わらなかったよ。
これもまた、俺の女神様の思し召しってヤツだね。

だ・け・ど、だけどですよ?
そんな俺の愛する女神様は……俺より友達を優先しちゃったんだけどさ!



こっそりと、Let's ナンパ!



"今度の日曜は映画でも観に行こうね"って言ったじゃん、俺。
それなのに彼女ってば、土曜日になって"ごめん。先客があったの忘れてた"なんて言うんだよ?
いやいや、約束は先着順だから仕方ないけど、ちょっとショックだったさ。
前回のことで色々と自粛させられたトコがあって…俺だって限界さ、ホント色々とね!
今日こそは本懐を遂げる思いでいたのに…うーん、残念。
と、いうことで本日は隣がガラ空きのロンリーな清純くんとしてはやるっきゃない。
一時の夏はまだ終わっちゃいないってことさ!

「あ、そこの素敵なお姉さん!」

ご無沙汰ご無沙汰のナンパに御座いますよ。腕、鈍ってないかなぁ。
本日は前回とは全く違う場所にて頑張らせて頂きます。
もちろん、彼女の行き先とは全く逆方向で見つかる心配もナイナイ。
てか、これは本気じゃないし、遊びの一貫だから問題もナイナイ。

「今、お暇ですか?」
「……」
「よかったら俺と少しお話なんかしちゃいませんか?」

振り返ったお姉さん、何やらビックリした様子で反応なし…と思いきや。
急ににっこりと微笑むモンだから、清純ったらキュンとしちゃったわ!
イイねイイね、そんなお姉さんの反応は大好物ですよ。
出だし好調ってカンジでもう前向きに受け止めちゃうぞ〜?

「お話、してもいいですけど…聖書って興味あります?」
「……ハイ?」

ちょっと雲行きが怪しい気がします。気のせいではなく、本気で。
よくよく見れば、そのお姉さんったら見慣れぬパンフなんか持っちゃってる。
う、うーん…ちょっと今回は初っ端ミス。何かマズった気がするんですが。

「今回、私たちは輸血について――…」

のぉー!ストッピーングッ!
興味ありません。興味ありませんからメンゴメンゴ―!
唐突に逃げさせて頂きました。笑顔の裏に隠されたものに怯えながら。
男、千石清純。己は信じても神や仏なんかは信じておりません。
折角トキめいたお姉さんではありましたが、そういった私情を挟むことは出来ません!


とりあえずは場所を移動移動。この地帯から離れましょ。
さすがにお仕事中の勧誘姉さんとかは俺の目的外ですからね。
うーん…"今日の占いカーウントダーウン!"では、今週末の運勢は悪くなかったんだけどなぁ。
占いって波でもあるのかな。当たる時は当たるのに…
いやいやいや!今日はまだ始めたばかりだし、まだまだチャンスはあるさ。
何事も諦めちゃいけない。コレ、我が家の家訓ね。

「あ、ねぇ君!買い物でもしてるの?」

可愛らしく、でもラフにコーディネートされた服を着て、手荷物抱えた女の子。
うん、明らかに買い物しちゃうぞーな雰囲気出ててイイね!
荷物持ちでも別に構わないよ。俺でもお供にしちゃわないかな?
で、ホンのちょっとだけデート風味とか味わえたりもしちゃったりして。
なーんて、俺ってばかなりお買い得な物件ならぬ人件ですよ?

「……荷物持ちなんか必要なんですから」

おーっと!俺の心、読まれちゃったりする?
最近の子はハイテクな機能なんかが付いちゃってるのかな?
とか思っているうちに、買い物途中の女の子は人混みの中へと消えていく…
うーん、不調ですよ。やっぱりご無沙汰だったから、調子が出ないみたい。
昔みたいに…昔みたいに…うーん、取り戻せそうだよ。あの頃を!


……確か、去年の桜咲く季節だったかな?
後にクラスメイトだと知らずに彼女をナンパしたのは。
目を奪われて突進して…何度も玉砕しながらもぶつかったっけ。
あまりにも引っ付いて離れないモンだから、彼女が根負けしたんだよね。
そう…あの時にあって、今にないもの。インスピレーションが奏でる情熱と根性だ!
玉砕しても玉砕してもアタックしてかなきゃ、実にならない。
うん。昔の自分にナンパの心得を教えられた気分さ。
昔の自分に乾杯。よく頑張ったと褒め称えなきゃいけないね。


「……清純?」


あ……この展開、俺は過去に体験してる気がするんですけど…
振り返った先にいるのは、可愛らしい格好をした俺の大事な大事な彼女さん。
お、おかしいなぁ。友達と約束してた先ってココじゃなかったハズ…

「ゆい…今日は友達と約束じゃ…」
「キャンセルされちゃったからブラブラしてたんだけど」
「え?キャンセルされちゃったの?」
「そう。で、清純は何をしてたの?まさか……」

ブンブン首を横に振りすぎてグキィ鳴りましたよ。筋、イタイ。
どうやら彼女、俺がナンパなんかしちゃってるところは見ていない様子。
俺の奇怪な行動に疑問を持ちながらも笑って…


「今更だけど…約束のデート、しよっか?」


ああ、思い出した。最初に声を掛けた時のこと。
彼女が根負けした時、今みたいに笑ってくれたから…恋に落ちたんだ。



◆Thank you for material offer 煉獄庭園
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