LA - テニス

05-06 PC短編
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「はいはい。文句を言わずに手を動かすこと」
二時間の授業が何故か潰れた。
それは別に構いはしないし、生徒からすればラッキー。
だからといって"喜んで"を合言葉に折り紙なんかを折るのはどうたろう…
いつから、この教室は幼稚園児の集まりになったのだろうか?



短冊の独り言




教室に飾られた先生持参の大きな笹。
クラス40人分の短冊を余裕で飾れるだけの笹は、
それこそ、クラス陣地を奪い過ぎているようにも感じる。
手元に配られた折り紙セット一式。
ワイワイ騒ぎながらも笹飾りを作っているクラスメイトたち。
私もまた、適当ながらもイビツな形のモノを作り上げていた。

「ゆいは才ないのぅ」
「……お黙り」
「なんじゃ、その産物は」
ちょっとナナメになった提灯、間隔が大き過ぎた天の川。
リングを作るのが面倒で適当に作った三角の簾。
次々に片手で持ち上げては溜め息なんか吐かれた。
その触れられた直後、糊が接がれてる。
「ちょっと、アンタのせいで壊れてるじゃん!!」
「糊付けが甘かったんじゃろ。小学生以下、工作が下手じゃのぅ」
「きちんと直しなさいよ。折角作ったのに」
傍に置いてたスティック糊を仁王に手渡して、修理を催促。
崩れてもなお、イビツさを残した折り紙にまた仁王は溜め息。
ええ、工作は苦手でしたよ。昔からね。
だけど下手は下手なりに、そこそこ頑張って作ってる。
それを壊されたら流石に怒りますよ。
「俺がもっと綺麗に作ってもええがなぁ…」
「別に。さっさと直してくれればいいし」
文句をブーブー垂れながらも、修正作業を行う仁王。
綺麗な指が…嫌でも目に入る。
「随分とお綺麗な手でいらっしゃいますこと」
「あ?」
「テニスしてる割にゴツゴツもしてないし」
しなやかな指が糊付けしていく光景。
たかが糊付けでもどこか綺麗に見えて…
「ああ。ゆいの手なんかよりは綺麗じゃろうな」
ニヤリと笑って、自慢げにその手を見せびらかす。
……褒めるんじゃなかった。
「綺麗な手でも字は汚いのね」
「…そりゃ関係ないじゃろて」
苦笑いをする仁王を片手で追い払って、私はまた作業を続けた。

コツコツと作業をしていくなか、笹飾りは次々に付けられていく。
仁王が糊を付け直した私の笹飾りも飾って、陣地を奪った笹がより豪華に。
更なる陣地を広げて教室で大きな主張を遂げるモノと化した。

「はーい、一人3枚ずつ短冊を書いて下さい」

……本当にココは中学校でしょうか?
今年、高校受験する生徒たちが集まった場所でしょうか?
退行したクラスメイトたち、いつもより生き生きしているのがわかる。
誰かは"エスカレーター受験の合格"の言葉を、誰かは"世界平和"の言葉を。
色々な願いを短冊に書き溜めるなか、私は悩んでいた。
3枚の短冊に何の願いを込めようか…

"そのまま進級出来ますように"
"常に平穏でありますように"

「……夢ないな」
「お黙り。イチイチ邪魔しないでよ」
「邪魔したらイカンて先生は言うてないじゃろが」
「そんな屁理屈はいらない」
わざわざ遠い席から足を運んで、文句ばかり。
他の人の短冊を見ては自分の内容を考えてるんでしょ?
「あと一枚、何て書くつもりなん?」
「教えない…って言いたいところだけど、わからない」
「面白くないヤツじゃのぅ」
あ、ムカつく。プリッて笑われた。
「そういうアンタは何も書いてないんでしょ?」
「俺は書いたぜよ」
「見せてみなさいよ」
青色の短冊"ペアの柳生がキレませんように"
赤色の短冊"真田の平手が俺にだけは飛ばないように"
汚い字で何とも言えない内容の短冊たち。
「…私より酷いわよ」
「これは余興じゃけん。最後のが本命じゃ」
「本命ってアンタ……」
ピンク色の短冊、スーッと目の前に差し出された。
2枚の短冊とは違う、綺麗な字で…
「俺、左利きじゃけんのぅ。汚いんは右で書いとる」


授業の最後、様々な願いを込めた短冊は飾られた。
その中にはピンク色の短冊が2枚、隣同士で並べられていた。


"志月ゆいへ想いが届きますように"
"詐欺師がウソツキではありませんように"



◇CARAMEL RIBBON、桐生嵐さんより329999hitリクエスト
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