LA - テニス

05-06 PC短編
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---音楽を鳴らす



桜が、咲いている。
"春だから"と言われれば、それは当たり前かもしれない。
だけど、今の季節は葉桜。
もう桜の花は散り始めている。



、咲く



そんな時期外れの桜の下、彼女は居た。
桜に見惚れている様子。俺には気付かない。
これだけ綺麗な満開桜だ。仕方ない。
「志月」
声を掛けて、ようやく気付いたらしく振り返る。
それほどに見惚れていたのか、俺の存在に驚いたように見えた。
「……跡部」
「こんなトコで花見かよ」
人知れず咲いていた桜。
そこに立ち止まる人間がどれだけいようか。
きっと、俺も彼女がいなければ素通りしていただろう。
「桜、綺麗だな」
「そうだね。今年初めて、じっくり見れた」
「そういや…俺もだな」
穏やかな時間がココだけに流れる。
風が吹くたびにヒラヒラと桜が舞い、まるで…
「雪みたいだね」
「…ああ」
ただ桜を眺めている時間。
それがこんなにも穏やかで、心地が良いだなんて。
誰がそう思うだろうか。
志月ゆい、彼女と桜を眺める時間…
「そういえば、跡部は何してるの?」
「今更、それかよ」
「まぁ…今更と言えば今更ね」
彼女は少し笑って、俺から桜に目を向けた。
その横顔が印象的で綺麗だった。
「なんか不思議」
「アーン?」
落ちてくる花びらを手で掬おうとしている。
だけど、その手をすり抜けて落ちていく。

「跡部と桜を見てるなんて」

落ちた花びら、また落ちていく花びら。
彼女は何度となく手を伸ばす。
「…ホラ」
俺の手元に落ちた花びら。
それを彼女にゆっくりと差し出す。
「ありがと」
「本当に欲しかったのかよ」
「まぁ…跡部と花見の記念にね」
俺から花びらを受け取った彼女。
手は伸ばさなかった。
「本当に綺麗ね…」


変な感覚が俺を襲った。
手が汗ばんで…何か焦りに近いような衝動。
不整脈に似た高鳴る動悸。


「志月」
「ん?」


桜だけが見た一瞬の出来事。
彼女の表情が変化した。


「言葉もない、か」
「あ、当たり前でしょ」
動揺している彼女と同じくらい俺も動揺してた。
突拍子もなく起こした行動に。
言い訳も見つからずに、ただ平然を装った。
だけど、これだけは言える。


「今のは志月が悪い」


彼女が何か言いたそうだったが…
俺はそれ以上は何も言わなかった。
その代わりにまた…


何気ない空間にいた彼女。
共に見た満開の桜。
その桜と彼女に、俺は捕らわれたのかもしれない。

いや…捕らわれた。



◆Thank you for material offer MUSICな気分♪AmR
◇紅蓮華、茜みずきさんへ捧げます。
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