LA - テニス

05-06 PC短編
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義理チョコ -side boy-

「……はぁ?」

第一声がソレって何?
こっちは意を決して相談を持ちかけたというのに…

「アンタ…そんなコト言ったわけ?」
「そんなコト…って?」
「ゆいに"義理チョコ期待してますね"って…」
「……?ハイ」

返事した直後、本当に直後。笹川先輩から喰らった右ストレートパンチ。
痛くないと言えば嘘になるけど…それ以上に殺意を感じる。
表情もいつもの先輩らしくはなく、まるで般若…

「こんスカタンがぁッ」
「せ、先輩…ッ」

部室の壁に足を置いて、俺の胸ぐらは掴まないで下さいッ。
ただでさえ短いスカート、否応ナシに下着が見えちゃいますよ…

「だから泣きそうな顔してたんだ…」
「…ハイ?」
「てめぇ…責任取れよ、せ・き・に・んッ」

キャラ変わっちゃってる…
志月先輩の横でいつもクールにしている笹川先輩はどこへ?

「お、落ち着いて下さいッ」
「あぁん?」

跡部景吾かよッ!!…って一人突っ込みしてる場合じゃない。
とりあえず、この人を落ち着かせないと話にならない。
殺気だって睨まれて、胸ぐら掴まれて…
デカい声で「責任取れ」なんて言うから、野次馬が数人来たじゃないですかッ。
その辺の男におみ足をご披露している場合じゃないでしょうが。

「とにかく、志月先輩の連絡先を……」

「教えてたまるか」

放つ殺気は変わらず。
だけど、ようやく掴んでいた服を解放して足を地に下ろした。

「今更、ゆいに何を話す?アイツが渡せなかったチョコを貰いに行くのか?」
「ち…違います」
「失恋した、そんなアイツを更に惨めにさせるつもりか?」

『ちょっと失恋しただけだから』
そう言って痛そうに笑った志月先輩の顔…
俺の脳裏にくっきりと、鮮やかに浮かぶ。
泣きそうな顔してた、確かにそうだったのかもしれない…

「俺は…今、言わないといけない気がするんです」
「何を言うつもりだ?言葉によっちゃ、また殴るぞ。今度は左だ」

「…俺、志月先輩が好きです」

……殴られなかった。

「だったら、何でゆいに"義理チョコ期待してますね"って言いやがった」
「本命チョコ下さい、って言えるはずないでしょうッ」

あの時…観月さんが志月先輩に声を掛けた時。
先輩は真っ赤な顔をして、ひどく動揺してた。
そんな姿を見て、どうして夢なんて見られるだろうか。
"俺にもチャンスがある"だなんて…

「俺、ちゃんと志月先輩が観月さんが好きなのを知ってますから…」

失恋の痛手に付け込む気は、ない。
だけど、あんな顔をした先輩も見たくはない。
だから…今しかない、気がする。

「わかった。ゆいに連絡取ってみる」
「先輩」
「アンタも、失恋覚悟するんだね」

「……最初から覚悟してます」



先輩に連絡を取ってもらって、いつも待ち合わせるという公園へ。
だけど、志月先輩はいない。
勝手にだけど、教えてもらった先輩の携帯番号。
数回のコール音の後に留守番電話に切り替わった。

『ピーっという発信音の後に……』

電話、出てくれない。
公衆電話だから当たり前…
こんな時に携帯を忘れた俺って、バカじゃないのか?

「志月先輩が好きです。今は観月さんが好きでも構いません。とりあえず、会いたいから来て下さい。今、近くの公…」

たった20秒間のメッセージ。
20秒って、こんなに短かったんだと知る。

もう一回電話、した方がいいのかな?
しつこいって思われても…電話越しでは通じない。
きっと、通じないから…

「……不二ッ」
息を切らせて、視界に飛び込んで来た女の子。
真っ赤な顔、泣き腫らした顔。
それでも…

「志月先輩ッ」

ただ、勝手に抱き寄せた。
自分の気持ちを直に告げるために…



-義理チョコ-
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