LA - テニス

05-06 PC短編
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体に掛けられた少し大きめな制服の上着。

それは彼の代わりにあったモノで、彼の香りがしていた。




眠り姫のぬくもり




この上着が彼の物だという確信はあるのに、

返すことが出来ず、今日でもう3日も経過していた。

捜せど捜せど彼の姿が見つからずに、持ち主の元へ帰りたそうな上着。

本当は教室へ持って行っても良いのだろうけど…

敢えて、そんなコトが出来なかった。


彼にとって私の存在は、きっと眠りの住人。

だから、現実に存在してはいけない…

そんな気がするから。


「……いた」


ようやく見つけた、もう一人の夢の住人。

この寒空の下、学校指定のシャツの白が目立つ。

上着は私の手の中にあるから、いつもこの姿で…


「寒かったよ、ね?」


申し訳ない気持ちで、眠る彼に声を掛ける。

当然、返事はなく、いつもの寝息だけが心地よく響く。


風が冷たくなって来た。

もうすぐ訪れる冬の到来を予感させる。

何も考えたくない時に、逢いたくなる存在。

眠りの中に住む、私と似たような住人。

だけど、もう私は…


「もうココでは寝れないや」


逃避したくて、わからないモノから逃避したくて…

それでも目の前に広がる現実に目を向けざるを得ない状況。

来年の今頃、高等部へ持ち上がるための試験もある。

それが垣間見れて、逃避することが怖くなった。


「私、夢の住人にはなれなかったわ」


聞こえることのない私の声。

勝手に一人で何かを言っているだけ。

彼には関係のない話。

それでも、思う。


「今までありがとうね」


彼の存在が、私にとって救いとなった。

"私だけじゃない" なんて勝手に解釈出来た。

例え、夢でも現実でも逢うことは出来なくても…

それでも…安心出来た。


彼の上着を肩に掛け、ゆっくりと髪を掻き分けた。

触れることのなかった彼の髪。

そして、ゆっくりと額に唇を寄せてみる。


「ばいばい」


触れた額、人のぬくもりを感じた。

それ以上に…


「……さよなら、なの?」


背中に感じたぬくもりが、心地よく…

目の前の光景に驚いて、声が出ることはない。


「折角、逢えたのに」


大胆に転がった彼の体の上。

初めて聞いた、彼の声。


「俺の、眠り姫」



ジロちゃんシリーズ・3
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