LA - テニス

05-06 PC短編
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最初はそれでも構わなかった。

好きになったのは私の方で、告白したのも私。

キスを迫ったのも…

もう全てが私からだったから。


だけどね、私の心にも限界があるんです。





非 公 開 恋 愛





付き合い始めて半年。

この期間に何度、学校で話した?

休日でも平日でも、外でのデートなんてしたコトある?


毎回毎回…決まって健太郎の家に遊びに行くけど

絶対に外では一緒に歩いたり、傍に居たりはしない。



「健太郎…」

「ん?」

「デートしようよ」

「今してるじゃん、デート」


最初は良かったんだよ、傍に居れる事実が。

本当に嬉しくて、嬉しくて泣いた。


「そうじゃなくて!!」


だけど、人ってワガママ。

次第にそれだけじゃ嫌で、だんだんだんだん不満になる。

それに…私は知った。





「――南くんってフリーなんだよね」

「特定の女の子との噂、ないよね」

「キヨが沢山あるから聞かないだけかもしれないよ?」

「でもさ、聞いたコトある?」

「……ないね」





そう…

誰も知らないってコト。

私は…悪くないのに隠されているってコト。

それに気づいた。





「どうしてダメなの?」

「ダメって…?」

「学校で一緒に居るのも、一緒に帰ったり、お弁当食べたり…」


他人とは比較したくないよ。

でもね、本当は私だって…羨ましく思うんだから。


「俺は今の状況で満足だけど」

「だから、私は――…!!」

「恥ずかしくないか?場所も構わずっていうのは…」



―――恥ずかしい…



「もういいよ!!」


恥ずかしい…

恥ずかしいってどういうコト?


健太郎がそういうのが苦手なのは知ってる。

からかわれるのも好きじゃないだろうし、それは私だって同じ。

だけど、そこまでベタベタしようなんて言ってないよ?


学校でも普通に話して、お弁当食べて、一緒に帰って…

それって今だけしか出来ないことじゃない?

恥ずかしいコトなの?



それとも…

"私が"恥ずかしいってコトなの…?





タンカ切って、健太郎の家を飛び出して…

怒りと同時に込み上げて来る悲しみ、不安、不満。

不安定な私の心は、変な感情でまだらにも乱れていく。



誰も知らない場所で一緒に居て…

誰も知らない恋愛をしている。

それは…他人から見た時には何も映りはしない。

誰も知らないってコト。



他の人から見た時、普通以下で論外で…

他の誰かが何も知らずに健太郎を好きなっていく。


そんなの…





「お、志月。思わぬところで発見」

「……東方」

「珍しく、しおらしい顔して…どうかしたか?」


南の仲間で相方の東方、だけど知らない。

私が全然、違うこの地にいても…南とは結びつくはずがない。


「……」

「ど、どうしたんだよ」


不覚、本当に不覚。

泣くつもりなんて、本当はなかった。


「おいおい…話は聞いてやるから、泣くなよ」

「…ん…ッ」

「まるで、俺が泣かせたみたいだろ?とりあえず、な?泣くなよ」


オロオロする東方をよそに、涙は止まらない。

私は…ずっと、我慢して来たんだから。


「あー、どうせ南だろ?何やってんだか…」

「………え?」





結びつくハズはないのに…

東方はハッキリとその名を呼んだ。

"南"…と。



「あの馬鹿、何言いやがったんだ?」

「……」

「何驚いてるんだ?」


不思議そうな顔をしている東方。

涙が少し止まって、混乱している私。

東方の顔を見ても…私の疑問の答えは出てこない。


「とりあえずな、落ち着いて話せ。な?」


聞かれたくない涙声。

それでも知りたいことは…



「ゆい!!」



聞こえた健太郎の声、反応した私の体。

振り返れば、サンダルで走ってくる健太郎の姿。

また…泣きそうで唇を噛んだ。


「おいおい…彼女泣かせんなよ」

「東方?」


私の向かいに居た長身の東方。

見えていたはずなのに、健太郎には…


「今までずっとな――…」

「言わないでいい!!」


隠しても無駄なのはわかっている。

だけど、こんな姿…

泣いていたなんて事実は知られたくない。


「不器用だな、お前も南も」

「……ど…して」

「は?」

「どうして知ってたの…?」



誰も知らないはずのお付き合い。

非公開な恋愛。



「俺は隠してたつもりはないから」



ハッキリ聞こえた言葉。

現に、東方は知っていたという事実。



「なるほどな」

「……何だよ、東方」

「わかった。志月に教えてやろう」


ニヤニヤ笑って、そっと私に耳打ちをした。

健太郎の絶叫の中、小さく聞こえた大事なコト。


「言うなって言っただろ!!!」

「馬鹿か、お前。今、言わなくていつ言うんだよ」

「墓まで持って帰れって言っただろ!!!!」

「言ってねぇよ」





"ホントウは南の方が先に好きになったんだぜ?"






たった一言、その一言が

私の大きく…小さなワガママを消していった。




-非公開恋愛-
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