LA - テニス

05-06 PC短編
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何かが飽きた。
それが何かはわからないけど…
飽きた。





『女心と秋の空』とでも言いましょうか?
この時期になると何かが変わりやすいもんなんです。
やる気はなくすし、
夏の疲れを連れて疲労千倍。
全てが嫌になって、嫌になって…

『別れよう?』

なんて吐いてみたりした。
あんなに好きだと思っていたのに…
なぜか、今は穏やかな気持ちで
なぜか、今は静かな心で
それだけを呟いて目の前から消えてみました。



驚いていた。



私じゃない。
他でもない別れを宣告された侑士が。

彼の言葉を聞くこともなく、
ただ…走って、目の前から消えました。



銀杏の木の下
することもなく、ただ空を眺めて
一枚、また一枚…
落ちていく落ち葉を見つめた。



跡部の彼女ほどじゃないけど、
やっぱ、本人が苦しむほど嫌がらせはあるよ?

ただの眼鏡じゃん。
自信過剰な自称天才じゃん?

それでもモテる彼の親衛隊は
私の存在が気に入らないわけで…今日も嫌がらせを受け取りました。



教科書は毎日手元に置かないとなくなります。
上履きは使われていない焼却炉に灰まみれになってました。
体操服はセクシーなモノになって
ジャージは水浸しになっていました。
通学用の靴は今履いてるけど、画鋲さんが潜んでいました。
大事に取ってあります…。

地味な嫌がらせでも
毎日毎日毎日毎日毎日毎日…
続けば嫌になった。

私が気に入らないのはわかるけど、
受験前の大事な時期で…
氷帝学園高等部に上がるかどうか、正直、迷ってしまいます。



侑士はこのまま上がる。
私が上がったら意味がない。



私は半年耐えて、これ以上は無理です。
いや、本当に良く半年持ったと思います。

きっと…
他の子なら耐えられるかもしれない。

そんな子と出会って
私じゃない人と幸せになれるんじゃなかろうか、と
最近、よく思っていますよ。



穏やかな気持ちで
静かな心で
本当にそう思う。



 



風は冷たく、世間も冷たく
景気も良くなくて、日本経済ガタ落ち。

暖かいモノは人工的に点けられたモノだけで
触れるときっと爛れてしまう。



着火。
燃えるのは紙に包まれた葉っぱ。
吐かれるのは白い煙。

美味しくはない。

制服で堂々と煙草を吸っても
空気自体が冷たいから、白い吐息と勘違いしてくれる。
哀愁を漂わせた制服の女の子と
煙草は結びつきにくい?



何だろう。
飽きてしまった。
嫌になってしまった。



親衛隊の皆様は
きっと、私がこうなることを望んでいたんだろう。

思い通りになってあげたよ?
これで満足?

次のターゲットはすぐに出来る。
そうしたら、同じことを繰り返して…
やった奴もやられるハメになることでしょう。

それが望み?



考えることが多くて困る。
それはきっと何もすることがないから。
ここで…
銀杏の木の下で
煙草を吸っては吐くだけの私は
考えるくらいしか出来ない。





「ゆいッ」





「…侑士」

「捜したでッ」

「…何で?」

地べたに座り込んだ私と
立ったまま肩で息をする侑士。
その距離は遠い。

「何で…て、いきなり…」

「別れよう、なんて言ったから?」

別にいきなりじゃないよ?
気付かない侑士も原因。
言わない私も悪い。
それでも、事実がある限りはいきなりじゃない。

「…何でや?」

何で、なんて聞かれても
一から説明するのが面倒で嫌だ。

「…飽きた」

考えるのも、話すのも、何もかも
全てに飽きた。

「……」

煙草を捨てて、足で踏みつける。
ポイ捨て、不法投棄禁止。
でも、今は本当にどうでもいい。

「嫌になった」

「さよか…」

どこかがチクッと痛んだ。
異常はないはずなのに
痛んだ。

「ほな…ゆいがしたいようにするわ」

「うん…」

「…また学校でな、志月サン」

志月、そう呼ばれた瞬間
涙が一筋零れた。



 












「…侑士…」












小さな声で呟いた。
遠くなった背中に向かって。

聞こえないと
思っていたのに…

振り返った。
驚いた顔で振り返って…



「…泣くくらいやったら傍におれや」



抱き締められた。
彼も地面に膝をついて
距離は隙間もない。



「…嫌なコトあったんなら言わなあかんで?」

「…ぅん」

「一緒に何とかするから…」

「……」

それは逆効果なの。
だから、首を横に振る。

「…あの子たちも…」

「誰や?」

「侑士が好きなんだよ?」

勘がいいからわかるよね?
あの子たち…
本当に好きだから、私が嫌いなんだよ。

「それがなんや?」

「…なにって?」

「俺の彼女はゆいだけやろ?他はどんなに想ってくれとっても受け取れへん」



特別?
私は特別ですか?



「俺はゆいがおったらそれでえぇんや」



泣いた。
ただ、静かに泣いた。





何かが飽きた。
それが何かはわからないけど…
飽きた。


そう思っていた私の心に
弱いだけの自分に嫌気が指した。





「…ごめんなさい…」





泣きながら謝る私に
侑士は何も言わずに頭を撫でていてくれた。





銀杏の葉が降って
足元を埋め尽くされる前に
私はまた前に進めるようになった。

今度は侑士と一緒に…



-秋、静心-
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