LA - テニス

05-06 PC短編
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日の暮れかかった放課後。

そこに彼女はいた。



「志月?何しとんの」



俺の声に驚いたのか、
彼女はびっくりした様子で俺を見つめていた。

「何だ…忍足君じゃん」

「何や、不満そうやなぁ。俺で悪いんかいな」

「そうじゃないけど…」

彼女は苦笑しながら、また窓辺に腰掛けて何かを始めていた。

落ち込んどるんか…?
いつもの向日葵みたいな笑顔はない。

「で、何してん?」

「ん?しゃぼん玉、飛ばしてんの」

彼女は俺の方を振り返った思うと、
ふーッとしゃぼん玉を吹きかけてきおった。

「うわッ!こっち向いて吹くなやb」

「いいじゃん。どうせ消えちゃうんだし…」



そう言った時
ホンの一瞬だったけど、
彼女は辛そうな顔をしていたような気がした。



「忍足君も一緒にする?」

目の前に突きつけられたのは…
何かのジュースのペットボトルに付いていたオマケのストラップ付きしゃぼん玉。

「たくさん持ってるからあげるよ」

「ほんならもろうとくわ」

受け取った小さなしゃぼん玉。
それを俺も開けて、彼女の隣で吹き始めた。

「綺麗やな〜」

「そうだね」

しゃぼん玉を吹いては消えてく光景。
彼女はただ、淋しそうな目で見ていることに気づいた。



少し伏せ目がちに…
それだけを見つめていた…。



「何かあったん?」



そう聞かずにはいられなかった。



「んー、別に。ただ…」

「ただ?」





「…このしゃぼん玉って壊れて消えるのが早くて…
綺麗なのに儚いから勿体無いなぁ…って…ね」





彼女が何を言おうとしてるんか、俺にはわからなかった。



でも、何となく…
消えそうになっているのは彼女で…
このしゃぼん玉みたいに儚く見えた。






「何か思い詰めるようなコトがあったんなら話してみ?
話したらスッキリするかもしれんやろ?」





こんな彼女を放っておけんくて…
俺はそう言うたけど、彼女はただ微笑んどるだけやった。





「…ありがと。その言葉だけでいいよ。嬉しかった」

「えぇんか?」

「うん。それに、あんまり女の子に優しくしてると痛い目見るわよ?」

くすくす笑いながら、彼女は近くのバックを持って目の前に立った。

「では、お先に帰りますッ」

敬礼のポーズを取って、彼女は教室の出口へと歩き出した。





何でやろ…

ここで帰したらあかん…。





「…志月ッ」



何で彼女を呼び止めたんか、
その行動は無意識やった。



「ん?」



気にした様子もなく、彼女は立ち止まって…
俺は言葉を捜した。



「いや…気ぃ付けてな。今やのうても、いつでも話は聞いたるから」



この言葉、嘘やなかった。
ホンマに…相談に乗ったりたかった。





「…あんまり優しくしないでよ。好きになっちゃいそうで恐いから…」





振り返らずに走り去った彼女。

その残像が…目に焼きついた。










次の日、嫌でも他人の口から彼女の話を聞いた。
彼女は跡部の恋人だったらしく…


そして…

昨日、別れた…と。


原因も理由も知らない。
だけど、まだ彼女は跡部が好きで…



もしかしたら、昨日のあの場所で…
跡部を待っていたのかもしれない…。





―――しゃぼん玉は…

彼女そのものだった…。





しゃぼん玉は綺麗やからこそ、その命は儚く消えてく。

彼女は、そんなしゃぼん玉を淋しそうな目で眺めとったんや…。


儚く消えたしゃぼん玉は…

彼女にとっては、自分の恋やったのかもしれへん…。





「おはようさん」

俺は躊躇うことなく彼女に声を掛けた。
別に…何も知らん顔すればええんやから。

「あ、おはよう」

「昨日はしゃぼん玉、おおきにな」

「いいよ、お礼なんて」

彼女は微笑んでそう言ったけど、目が赤く腫れていた。
泣き腫らした目…。

「なぁ。今日、暇かいな?」

「え?」

「ちょい相談したいことあんねん。付き合わへん?」

「う…ん。いいけど…」

彼女は不思議そうな顔をして俺を見つめていた。





しゃぼん玉は儚く消えるが故に美しい。

だから俺も…
そんな彼女を好きになっていた。



-しゃぼん玉-
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