LA - テニス
□05-06 PC短編
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言えてよかった。
消された言葉-5-
「先輩」
「それだけ。じゃ、また明日…」
「志月先輩ッ」
私なりの優しさ、
それを長太郎にあげるね?
「彼女には優しくね」
笑って、私の感情を殺して…
肝心な本心は遠回しな言葉の裏に隠して…
「俺は自惚れてもいいんですか?」
「……はい?」
何に自惚れるの?
それは自分がモテるというコトを?
「先輩は俺が好きって…思ってもいいんですか?」
「……好きだったよ」
今の瞬間から過去形。
好きだった人へ…変わる。
「過去形になんかしないで下さい」
近づいて来る?
今、なんて言ったの?
「先輩は…忍足先輩とは関係ないんですか?」
「忍足?」
「付き合ってないんですか?」
期待、させないで?
「付き合って…ない」
期待なんか、させないで?
「忍足先輩に聞かれた時、俺…嘘を言ったんです」
「嘘?」
期待したくないのに期待する。
長太郎の唇の動き、目で追って…
「俺は………」
風が言葉を攫って…
長太郎の姿が見えなくなった。
「チョタ…ロ?」
耳元で呟いた声。
それは私よりも先に告げた言葉。
消されたはずの…
「先輩は…?」
少しだけ背伸びをして
風に攫われないように告げた言葉。
好きです
次の日、忍足に告げた。
「さよか…アイツ、なかなかの策士やな」
「策士?」
「裏の裏、突かれてまうとはな」
忍足は悔しがって…
だけど、いつもの顔で私に接してて…
「胸、別の子に貸してあげなよ」
「そうしよかな」
ありがとう、それだけは素直に告げて。
「鳳見とる時のお前が好きやったからしゃーないわ」
人は考え、悩む生き物です。
それ故に臆病になったり、弱くなったりします。
だけど…
少なくともその結果次第で
前に進んでいけるのだ、とその日の授業で先生が言いました。
消された言葉