LA - テニス

06-07 携帯短編
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シンプルなものだった。何よりもシンプルなカタチをしていた。

誰よりも近くに、誰よりも傍に居たから、だからじゃない。

お互いを理解していた誰よりも、だから心地良く、だけど切なく…

時折、泣きそうなくらい貴方に…今も恋してる。




叶え、恋。




最近、一丁前に自慢の髪をセットなんかしてカッコつけてると思う。

一丁前に流行にこだわってみたり、見もしないファッション雑誌なんか持ってたり。

似合わない、らしくない…そんな岳人はつまんない、と思う私。

変わりゆく大事な幼馴染みを批判するつもりはないけど、少し気に食わない。

私の知っていた岳人はそこには居なくて、だけど脚光を浴びる岳人は居て。

ちょっとだけキャーキャー言われようもんなら調子に乗って?それがとてつもなく――…


「……ムカつく。ちょっと殴らせてよ!」

「はあ?お、おい…いててッ、殴んなよ!」

「間抜けな声出さない!男なら耐えなさいよ!」

「んな理不尽な――…」


誰も気づかなかったでしょう?ホンの少し前までは。

私はずっと、ずっと知ってたんだよ?見て来た、昔からずっと同じ場所から。

今の岳人じゃなくて素の岳人がどれだけ…どれだけ素敵か、を。

それなのに何で今更なの?いや…何で今頃なの?

良く彼を知りもしない女の子が、そんな目で見てる。目で訴えている。

"好きになりました、私の方を振り返って下さい"って。


「……すっきりしない!」

「散々殴っといてそれかよ、ゆい…」


そんな風に、私はずっと見ているのに…気付かないこのオカッパが悪い。

年季が違うのよ。いい加減気付いてくれたって良さそうなモノなのに…

少しずつ背が伸びて、もう私を越した岳人の顔をただ睨む。

声も変わりつつあって、これからまたどんどん変わっていくのだろう。

男の子って、きっとそんなモンなんだろうな…妙にそれが切なくなる。


「くそくそ岳人め!」

「はあ?大体何だよ、お前なー」


焦るばかり、馳せるばかり。時間じゃない、私の心が。

近すぎるくらいの距離にいるのに、その距離が近すぎて逆に縮まらない。

溜め息だって吐きたくなる。無意味に八つ当たりだってしたくなる。


「あほ岳人」




頬杖付いて眺めて、ぼんやりながらに流れた時間。

私の中に岳人が居なかった日なんてない。映らなかった日もない。

話さなかった日は、何処かにあったかもしれないけど…

それでも存在しなかったことは一日だってない。なかったと言い切れる。


そう。だからこれは恋だと言える。


頭の中は馬鹿な幼馴染みでいっぱい。他の何でもない岳人でいっぱい。

気付かなきゃ良かったのに、いつの間にか気付かされるハメになっていった。

頬杖付いて斜めの角度の方向、少し遠くに変化した岳人がいるから。

変化した岳人に反応する女の子が居るから、だから気付かされた。


いつまでもこのままじゃいられないと知りながら、現状維持を願った。

傷つかず、傷つくこともなく幸せを得ようと、何処かで考えていた。

頬杖を付いて斜めの角度、溜め息を吐いて思うこと。

"私はあの子たち以下なんだ"と。動けるのに動かない、臆病者。




「お前、それ以上曲がったら…アレだ。首もげるぜ?」

「あ…岳人」


夕暮れ、ぽつんとある古ぼけた公園の錆びたブランコ。

私が昔から大好きな遊具で、誰にも譲らずに延々と座ってたことがあった。

今も同じ。私の原点みたいなのはココにあって、何かあればココに来る。

嬉しいことがあっても、悲しいことがあっても、どんな時だってこのブランコだった。

ギシギシ鳴って、手には錆びが付くけど、それでも落ち着ける唯一の、場所。


「お前、最近変だな」

「うーん…変と言えば変」


その傍らにはまた岳人の存在があった。

何処からかやって来て、隣のブランコに座って、気付けば同じ帰路を辿る。

頼んだわけでもなく、お願いしたわけでもないのに、ただ居た事実が残されている。


「行動も妙だぜ?」

「妙と言えば妙」

「聞いてねえだろ、ゆい」



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