LA - テニス

06-07 携帯短編
44ページ/52ページ



今日はちょっとした特別な日。みんな気合が入ってると思う。
バレンタインとかクリスマスとかも凄いけど、それよりもっと大事な日。
誰よりも輝くために、少しでも彼の目の中に残るように…
私はそんなみんなに気圧されながらも少しだけ勇気を持って学校へ来た。



他人にあげたプレゼント



バレンタインの再来、下駄箱も机の上も凄いことになってる…
こんなに積み上げられたプレゼントにまで圧倒されそうな、そんな勢いがある。
だけど、そんなプレゼントの前には跡部くんは居なくて、代わりに樺地くんがいる。
大きな紙袋に一生懸命、置かれたプレゼントを入れる作業をしてるようで…
でも、その最中にもどんどんプレゼントは増えていく。紙袋が間に合ってない。

「おはよう、樺地くん」
「ウス」

ちょっとした気遣いにでもなれば…そう思って用意しておいた紙袋。
ホンの少し、これが役に立つとは思えないけど樺地くんの前に差し出してみる。
彼は特に気にした様子もなさそうだったけど、それでも作業の手を止めた。

「今年も大変だね」
「ウス」
「良かったら…この紙袋も使って?」
「……ウス」

彼が持参した紙袋と私の用意した紙袋。
その中にまたどんどんプレゼントは収められていって、やっぱり足りてない。
収まったプレゼント、入りきれてないプレゼント、目の前に溢れたプレゼント…
私が用意したものはまだ、その中には含まれてない。

「……運ぶの、手伝おうか?」
「ウス」

どうやら私が手伝えることは紙袋までだったらしい。
彼は山積みのプレゼントを全て抱えて、教室から出て行ってしまった。
本当に大変な仕事を抱えちゃってると思う。彼も苦労する人だ。

……私はどうしよう。
用意しては来たけど、完全に他の人のに気圧された気がする。
山積みのプレゼントの中の一つでしかない私からのモノ。
渡すことに意味があるのかもしれないけれど、渡すと負担にもなりかねない。
あれだけの山を見て、溜め息を一つ零して手は止まってしまった。


授業が始まっても、休み時間になっても、跡部くんの姿はなかった。


「おーまだまだ増えるなこりゃ」
「あ…向日くん」
「志月は渡さなくていいのか?」

跡部くん不在の机の上、それでもプレゼントは休み時間の度に増える。
それを樺地くんは毎時収集しては何処かへ持ち去っていく。
多分、空き教室か部室かに運ばれていくのだろう。バレンタインの時同様に。

「邪魔になりそうだからやめとく」
「まーな…って用意してんじゃん!」
「一応、ね」

まだバックの中に取り残されたプレゼント。
やっぱり今年も渡すのは止めようと思ってしまった。あまりにも凄すぎて。
そして、あまりにも情けない代物にも思えて…やっぱり気圧された。
毎年足りなかった勇気だけど、今年もどうやら足りなかったみたいだわ。

「なーなーそれって食い物?」
「違うよ。残念でした」
「チッ。食い物だったら貰おうかと思ってのに」
「お生憎様。食べ物だと大変なことになるでしょ?」

紙袋に詰められて、ぐちゃぐちゃになった食べ物を見て、跡部くんが喜ぶとは思えない。
だから私なりに考えたもっと実用的なもの。但し、趣味に合うかはわからないけど。
一番シンプルなスポーツタオル。誰でも持ってそうな、誰かと被ってしまうとは思ったけど…

「なーそのプレゼント、俺にくれよ」
「……コレは別の人にあげようと思う」
「え?マジかよ!」
「うん。ごめんね」

跡部くんに渡せないけど、自分に不要なもの。
向日くんにあげても良かったのかもしれないけど、何となく渡したい人が見つかった。
目の前で一生懸命に頑張っている人。不愉快かもしれないけど…

「ねえ、樺地くん」
「……ウス?」
「少し…不快かもしれないけど」
「ウス?」
「これ、樺地くんにあげる」
「は?樺地にやんのかよ!」

あ、向日くんが物凄く驚いてる。目の前の樺地くんも驚いてると思うけど…
使って貰えないのは寂しいし、渡してもその後の行き先はわからない。
だったら、今日一番頑張っている人に使ってもらえたならタオルも本望かもしれない。

「タオルなんだけど…嫌じゃなかったら使って?」
「……ウス」
「くそくそ樺地め」

物凄く向日くんは悔しがってるけど、確かこの間の誕生日に沢山貰ってたような。
跡部くんほどではないにしても相当な数だったと思う。忍足くんに持たせてたし。
とりあえず、これで私の手持ちはなくなって結局は今年も何も出来なかった。
少しだけの勇気じゃ足りなかったみたい。頑張れませんでした…終わり。



結局、跡部くんは放課後の部活だけ参加していた。
それでもまだまだ勢いが衰えず、コート内にはプレゼントが散布した状況。
どうやって持って帰るんだろう。またトラックでも用意するのかな?
結構、見物ではあるけど…未練がましくて情けないから、うん帰ろう。



「志月、走れ!」
「……は?」

背後から響いた声、掴まれた腕が自分の意志とは別の方向へと進んでいく。
その一瞬、何が起こったのかも、今何があっているのかも理解出来ていない。
ただ、わかっていることは…フードを被った人が私の手を引いているということだけ。
誰か知らないけど私の名前を知っている人で、ただ走らされているということだけ…

「……撒いた、な」
「……あとべ、くん?」

後姿では認識しづらいけど、そのインパクトのある声でわかる。
息切れしている私の目の前に振り返った人は、やっぱり跡部くんだった。

「いきなり走らせて悪かったな」

悪いとか悪くないとか以前にちょっと酸素を下さい…話せる状態ではないです。
ただの帰宅部、しかも運動神経も平均下なので体力に自信がありません。
それなのに物凄いスピードで走らされて…酸素が頭まで回っていないんです…

「プレゼント、受け取った」

……プレゼント?

「紙袋とは気が利いてたな」

……樺地くんが話したの?

「本来貰うべくプレゼントは樺地にやったらしいな」

……それは、樺地くんから?向日くんから?

「おい、まだしゃべれないのか?体力ねえな」
「……すみ、ません」
「まあいい。その礼としてお前に渡したいモンがある」

……紙袋はプレゼントじゃないけど、それでお礼を?
そのためにわざわざ走って、走らされて、取り巻き撒いて人気のない場所へ?

「欲しいか?」
「……物に、よります、が」
「そんなに高いモンじゃねえ。元手はタダだ」

……元手ゼロのプレゼントって何?貰い物か何かだろうか。
むしろ今は少し酸素が欲しいです。酸素を吸う時間があればまだ少しは話せます…
息を飲むのにも一苦労しているなか、跡部くんはただ笑って横を指差す。

「……はい?」
「俺様の横に立てる権利だ」
「……それって、何、ですか?」
「わかんねえのか?彼女にしてやるって言ってんだ」

息切れして言葉もまともに出ない私の手を引いて、自分の真横へ配置して…
両手で私の肩を抱いた跡部くんが、耳元で囁いた一言に私の神経はやられた。

「お前を…気の利く女を傍に置くと決めてたんだ」



Happy birthday to Keigo. vol.3


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ