LA - テニス

06-07 携帯短編
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いつものように帰宅すれば、何故かリビングが騒がしい…
理由は明快だけど…母さんが無駄に一人で騒いだりすることはない。
扉…開けるのが怖いな。扉一枚先の光景がどんなのか、わかっているから。



家族一体化警報



「あ、おかえりなさい」
「……やっぱお前か」

俺の予想通り。母さんと並んで良からぬものを必死で作っているのはゆい。
昔からの幼馴染みで互いの両親も当然面識もある。仲は嫌になるくらい良い。
それゆえにコイツの出入りは自由なもんで…今となっては一体化の傾向まである。
別にそれが悪い、とは言わねえ。言わねえけど…問題はそこじゃねえ。

「……じゃ、俺そのまま寝るわ」
「待て待て待て!食事は?ケーキは?」
「……いらね」
「何でよ!私が亮のお母さんと作ったんだよ?」

これだ。問題はコレ。毎度毎度、イベントごとにウチにやって来てはコレだ。
花嫁修業だが何だかは知らねえよ。それをわざわざ俺ん家ですることはねえだろ?
自分ん家でやれよ。頼むから。母さんも断れよ、いくら男系家族だからって…
コイツは女の子とか娘とかレベルじゃねえだろ?不出来極まりない産物だ。
俺たち家族、何度黄泉に飛ばされそうになったか…数えられねえだろ?

「……パス1」
「パスもクソもないわよ!」
「だったら俺は今日家出する」
「家出するんだったらコレ持ってけ!」
「それが怖くて家出すんだよ、この馬鹿!」

今回も実に見事な出来だ。食欲をそそるようなカタチはしてる。カタチだけはな!
これが胃の中に入った途端に凶器になるから恐ろしいんだ。
ヤバい味とかのレベルじゃねえ。もっと殺人的な何かがふんだんに盛り込まれてる。
きっと、今回のも間違いなくクルだろう。今度は搬送されるかもしれねえ…

「何よ。ちゃんと食べてから言ってよ」
「食べなくても分かるだろ」
「分かんないわよ」
「いーや、俺には分かるんだよ」

大体、何たってあんな破壊的なものが作れるんだろう。
不味いにしたって限度ってモンがあるだろ?見た目は美味そうなのによ。
それを延々と事あるごとに食わされたんだ。拒否反応も出るだろうが。
何でそんな単純なことも分かんねえかな。マジで。切実に。

「お前味見してねえだろ?」
「今回はちゃんとしたわよ!亮のママと」
「ママとか言うな。ホントかよ、母さん」

キッチンで完成したらしい代物を盛り付けてテーブルに運ぶ母親は…
やけに不気味な笑顔を浮かべて2度3度と頷いていた。
……やべ。色々と胡散臭さ満載だな、おい。
本当に味見したのかさえ疑わしいじゃねえか。その不気味な笑顔は。

「ほらね。だから心配いらないよ」
「……マジで言ってのか?」

母親と同じようにゆいに聞き返してみれば、こいつもまた笑顔で頷く。
毎度御馴染みの自信ってヤツだな。んな自信、どこから湧くんだ?
その自信が何度となく圧し折られたこともあんだろ?それでもあんのか、自信。

「当たり前じゃん。ノープログレム」
「下手な発音で言ってんじゃねえよ」
「とりあえず、座って座って」

……おい待てよ。ココはお前の家じゃねえぞ?
何でお前がそんなに仕切ってんだよ。この家の住人そっちのけで。
いくら何でも図々しいだろうが。いくらウチの勝手を知ってるからっておかしいだろ?

「ん?何か色々言いたそうだけど今は座れ」
「命令かよ!」
「指示よ、指示」
「それと命令と何が違うんだよ」

命令と指示の違い、どちらにしても強制には変わりないんだろ?だったら同じだ。
ああ、何て誕生日だよ。こんなことなら無理言ってアイツらに祝ってもらうんだったな。
アイツらの嫌味や嫌がらせも含めた祝い方の方かまだ優しいモンがあるな。
コイツの場合…次の誕生日は来ねえかもしれねえ。いや待て、明日もねえかも。
俺の人生って本当に短いな。短すぎて走馬灯の流れまで短そうだ…



……人間って意外とタフに出来てるらしい。
何とか生きてた。生きるということの素晴らしさを実感してる。
それと同時に、ヤバいまでの腹痛も身を持って実感してるところだがな。

「……そんなに惨かった?」
「……花畑が見えたぞ」
「花畑?それ言いすぎだよ!」

言いすぎもクソもねえだろ。お前は平気だったかもしれねえけど…
俺は本当に花畑に向かって進むトコだったんだぜ?向こう岸で誰か呼んでた!
この腹痛がなかったなら間違いなく進んでた!腹痛何ざに救われたくもなかったがな!

「大体…何入れたらあんな味に…」
「ん?亮への愛を沢山入れたんだけど?」
「適当こくな!」
「チッ」

コイツ…チッとか言いやがった!何てヤツだよ、おい!
誕生日だってのに俺殺しそうになっておいてよくそんな顔出来んのな、お前。
つーか、味見ちゃんとしたんだろ?その時点で何でホントのこと言わねえ。
……まさか、本当はしてねえのか……?信じた俺が馬鹿だったのか?

「もう…勘弁してくれ」
「勘弁って何さ」
「もう二度と俺の前に料理出すな」
「何でよ!私は亮に食べてもらいたくて…」
「だったら胡散臭い愛は入れんな!普通にしてくれ!」
「……チッ」

まただ。またチッとか言いやがった!この腹痛がなかったら殺されてんぞ、てめえ。
嫌がらせだったんだな?今までずっと俺だけをターゲットにした嫌がらせ…!
そう言えば、お前の料理が不味すぎて食中毒者が出たなんて聞いたこともなかったな。
ウチの学園では月一度ペースで調理実習があってるにも関わらずだ。

「折角亮だけのために私が考案して来たのに何さ!」
「逆ギレかよ!」
「当たり前じゃん!亮のため、亮だけのための料理なのよ!」

……そう言うんだったら普通にしてくれ。

「俄然やる気出たわ!次はもっと愛を込めてやる!」
「やめろマジで!次は死ぬ…次は三途の川渡るだろ!」
「大丈夫。亮は死なない!」
「んな保障何処にもねえよ!だからやめろ!」

折角拾った命…お前のために捨てるわけにはいかねえんだよ。
第一、料理食って死んじゃいましたーじゃ葬式もまともに出来やしねえだろうが。
お前殺人罪で捕まるぜ?わかってんのか、その辺の流れを!

「リベンジはクリスマスね!」
「必要のないリベンジすんな!」
「普通に作ればいいんでしょ?そしたら亮も食べてくれるんでしょ?」
「普通だったら誰でも食べるっつーの!」
「……言ったわね?」

な、何だよ、急にマジな顔しやがって…異常なモンじゃなかったら食えるっての。
ただ今の今まで、お前がまともなモンを作らなかったから食べれなかっただけで。

「クリスマス、首洗って待っといてよ」
「おうおう。まともなモン作るんだったら待っててやるぜ?」
「じゃあ、クリスマスは彼女作らずに私のために空けておきなよ?」
「な、何だよそれ…」
「彼女出来たからキャンセルなんてしたら許さないんだから!」

何だよ…その言い方。顔は茹でダコみたくなっておきながら虚勢張りやがって…
しかも、今の台詞はまるで…告白、みてえじゃないか…

「……ちゃんと空けとくから、マシなモン作れ」
「わかった。そのマシなモンが出来た日には…」
「何だよ」
「亮んトコ嫁入りしてやるんだからね!」

茹でダコゆいはそれだけ言って俺の部屋から逃走した。
まさか、本気で告白だったとか…んなことねえよ、な?



Happy birthday to R.Shishido. vol.2


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