LA - テニス

06-07 携帯短編
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「我慢すんのはしんどいわー」「体に毒だぜ、毒」て忍足と跡部はよく言う。
そもそもお前らには我慢っていう言葉はねえだろ?ワガママ放題な分際で何を言う。
だけどコイツらの言っていることは間違いではなくて…我慢、とか、正直キツい。
でも、それでも俺は我慢していこうと思ったんだ。色々と、自信もない、から。



我慢



何だろうな。俺が長太郎くらい背があったら自信になったんだろうか。
跡部くらい頭が良くて金持ちで、忍足みたいにベタに低くてキモい声だったら…
キモい声は勘弁ってもんだけど少しでも違ったなら…それが自信に変わってただろうか。
結構取り得のない自分にヘコむな。地味に、ある意味派手にヘコむ。

「おっはー宍戸っち」
「……変な呼び方すんな」
「たまごっちみたいで可愛いじゃん」

……たまごっちって。お前いくつだよ。小学生か?
小学生…とかのレベルじゃねえな。コイツ頭いいし、パッと見は年上っぽいし。
教師受けイイヤツだから委員長なんかやってて…正直、身近な存在には感じられねえ。
何だろな。完璧とは絶対に言わねえけど、こう…一歩引いちまいそうなカンジがする。
それなのに、それなのにだ。俺に構ってくる。その所為なのか、好きに…なっちまった。

「……はあ」
「人の顔見て溜め息とは解せんな」
「溜め息吐きたくなる顔してんだよ、委員長は」

別に不用意に誰彼構わずに声掛けて来る女に惚れるような趣味はねえ。
跡部じゃあるまいし、忍足じゃあるまいし、岳人でもあるまいし…
だけど何でだろうな。気付けばそんな気持ちが芽生えてて、雰囲気に呑まれた、みてえな。
説明も付かない感情が気付いたら存在して、距離とか無茶苦茶あんのに…
コイツに、俺のこと、好きになって欲しい、とか思ったりとかして。わけ分かんねえよ。

「あー要は私に見惚れて溜め息なわけね」
「……バーカ」
「ほほう、さては図星だな」
「……おめでたいヤツだな」

肯定、とかしたらお前はどんな顔すんだ?赤面して俺を意識するとか、してくれんのか?
……俺の方がよっぽどおめでたい人種かもしんねえ。更に溜め息吐いた。
何でだろうな…伝えたいとか言いたいとか、そんな気持ちもあんのに。
それでもコイツを目の前にしたら一言もそれらしいことが言えねえと来た。
言っちまったらきっとスッキリするだろうし、伝わると思うけど…俺らしくねえ、怖いんだ。

「そう日に何度も溜め息吐かないの」
「……誰が吐かせんだよ」
「私だって言うのかい?」

お前しかいねえだろ?バーカ。
身近に感じねえから言うのが怖いんだろうか、それとも臆してんのか?俺。
同じクラスの女子で、別に普通のヤツで、俺と何も変わらないって言うのに…

「失礼極まりないなー宍戸っちは」
「だから、変な呼び方すんな」

委員長はあくまで自然体で俺に声を掛けて来てるのに。
俺だけ変に意識してる。その事実が俺の中にはあって…それが何とも言えない。
俺だって自然体で話とかしてたいと思うのに、それが出来ないなんて激ダサだ。
でも、それくらい、俺は…好きなんだと思う。コイツのこと、が。
うわー何か認めたくねえな。わざわざ認識とかしたくねえ。あまりにも情けねえし。
行動力ねえとか言われても仕方ねえくらい激ダサじゃねえか俺。

「……何葛藤してんの?」
「のわ!」

近!お前、顔、近すぎ!近づけんな!マジで!
人がお前のことで悩んでるってんのに、そんな、覗き込んで顔、とか見られた日には…
嫌でも顔に出ちまうだろ!俺は跡部とか忍足とかとは違うんだ!その辺分かれ!
分かれ…って言われても困るか。俺何も言っちゃねえし…でもそこは勘ぐれよ!

「変な宍戸っち」

……ふわって笑顔、可愛いとか、思わせんな。
手、伸ばしたくなるだろ?髪とか頬とか、もう色々、触りたくなんだろ?
俺は…壊れんのも壊されんのも嫌なんだ。お前が本当に好き、だから。
お前が何とも思ってなかったら、俺が何言っても無駄だろ?そしたら今が壊れる。
今の関係が壊れて…プラスして俺の心が壊れる。壊されちまう、だろう?
それは嫌なんだ、それだけは。そう言ったならば…臆病者だって言われちまうだろうか。

跡部くらい自信があれば良かった。「俺様に靡かねえ女はいない」
忍足くらい自信があれば良かった。「好きにさせるんが得意やねん」
俺には…そんな馬鹿みてえな台詞吐けるほどの自信は、ない。

「……臆病なんだ」
「は?」
「笑う、か?」

「宍戸っちが臆病者?」て聞き返すから、俺は何も言わずに頷いた。
何言ってんだ?くらい笑い飛ばしてくれたんだったら、俺はそれ以上何も言わない。
そのまま冗談して流して、それでもうその話は終わりにする。
考えなかったらそれでいいんだ。比べなかったらそれでいいんだ、て思うことにする。
全てを認めて、それを甘んじて受け入れようと思う。

「んー笑わない」
「……笑えよ」
「臆病じゃない人なんていないと思うから」
「……いるだろ」

身近に、そう告げたら跡部たちのことだと分かったらしく、それは例外でと笑った。

「少なくとも私も臆病だよ」
「そうなのか?」
「結構、そこそこ、かなりチキン」
「チキンとか言うな」

それの何処が悪い、と彼女が笑いながら言うもんだから…俺も笑って受け止めた。
ああ、そうか。こういうヤツだから好きとか、そんな気持ちが生まれてくんのだろうな。
人の話をちゃんと聞いて、ちゃんと受け止めて、それで言葉を返すようなヤツだから…
自然体、そうか。俺も自然体で向き合えば…いいのかもしれねえな。

「結構勇気いるよね」
「何がだ?」
「宍戸に声掛けんの」

……何だ、今、何言った?
話の展開からすると…何だろ、俺の、自惚れ、とか、入るぜ?
今の言い方だと…俺に声掛けるのに勇気が必要で、でもお前は臆病で。
そこからの流れで行けば…何だよ、お前、俺が、好き…とか、か?

「お前…今の…その…」
「ん?そのまんまの意味」

ああ、我慢とか無理。てか、ナチュラルに言いやがった。
「宍戸が好きで声掛けてるんだよ」とか「結構鈍感だね」とか「普通に気付けよ」とか。
だから…言葉に表せない感情を、態度で示した。机越しで…机邪魔だ。

「ごめんね。宍戸が私の方向くように仕向けた」

謝ってる割に楽しそうにしやがって…
だけど、響く心拍数は俺と同じくらい速いじゃねえか。

「……バーカ」

そうやって俺をハメていくんだろう。これから先も、彼女は…
だったら俺も遠慮しねえ。容赦もしねえ。我慢も…しねえよ。



-我慢-


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