LA - テニス

06-07 携帯短編
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わざとと言ってもいいと思う。八割方わざと、だ。
そうでもしねえとお前は俺の方を見ることもねえだろ?
子供っぽいやり方だって言われても仕方ない。
事実として自覚もしてる。これはあまりにも子供っぽい。
だけど、それでも俺はこうするしかない。
子供っぽくても、それ以外に方法が見つからない。

この俺様が苦戦する。苦戦して、苦戦して…滑稽な様子。
それにも気づくことのないお前は…ある意味、幸せなヤツだ。



××だから…



「アンタね…今わざと置いたでしょ?」
「アーン?」
「たった今借りたいって言ったばかりよ!」

女子の成長期は大体、小学末から中学半ばくらいまで。
あくまで個人差はあるかもしれねえが、ま、大体そんなもん。
今、目の前にいるコイツだって昔は俺より背は高かったかもしれねえ。
だが、俺様が知る限り…中学からだけどよ。身長が伸びた気配はない。
見下ろすのが大変なくらい、ちっこいのな。コイツ。

「本は元の場所に戻しましょう」
「……それが何」
「アレ、書いたのお前だろ?図書委員さん」

そのちっこい体で俺様に平気な顔して突っ掛かってくる。虚勢、だろうな。
だけど意味もなく突っ掛かっては来ない。どうでも良かったら見向きもしない。
まるで通行人のようにただ流れていく。俺は…振り返ることすらあるのに。
そんなことも知らずに生きてる。生息している。ただ、生活している。

「書いてある通りにしたまでだ」
「……カンジ悪!」

それがあまりにも切なくも悔しく感じるから、わざと俺が突っ掛かる。
子供染みた行動、情けないまでの手段、それでも志月は気付かない。
別に女には不自由してはねえぜ。嫌でも寄って来やがるからな。
だけど、それでも、その中に入って来るようなヤツは好きにはなれねえ。
迷惑とか考えてねえからな。時々常識ねえヤツもいるもんだから正直うぜえ。
そいつらに気付かれねえように…コイツにちょっかい出すのも至難の技だ。

「自分でちゃんと取りますよ」
「ククッ…精々そうしな」
「用が無くなったんなら帰れ」
「ああ、そうしよう」
「ご返却有難う御座いました!」

ちっこいってのも大変なんだな。わざわざ足場持って来て手を伸ばす。
それでも届くわけねえよな。棚の一番上に返したんだから。
一生懸命背伸びして、一生懸命高い位置へと伸ばそうとする手。
そうやってる姿を見るのが…嫌じゃねえ自分がいる。
我ながら最低だよな。そうでもしねえと口実も何も作れねえってのが。
帝王・跡部の名が泣くと思う。まるで他人事のように…

「……ほらよ」

自分で高いとこに置いておきながら、自分で取って志月に渡す。
面白いものも見れたし、俺的に満足したんだろ…て、また他人事。
手渡した時、驚いた顔をした志月だったが…馬鹿だな、すぐに笑った。
笑ったっていうのは変だったな。優しく微笑んで「有難う」とか言って…
目線はいつもより上で、見下ろすまでの位置にない、つーか近くに顔があって…
馬鹿、だな。いつもと違う場所でそんな風に笑うな。微笑むなよ。
切れる理性。違うから切れる。近いから衝撃が、走る。

「……な、に?」

足場は何センチあるんだろうか。15センチくらいあんのか?
だからこんなに近いのか?コイツの顔が、コイツの肩が…抱き締めやすい。

「ちょ、ちょっと…あ、跡部?」
「……黙れ」

もう伸びることはねえだろう志月の身長。だけどヒールでも履いたらこんなもんか?
底の厚いブーツとか…そんなのを履いて並ばせたら、こんなカンジなのか?
顔がかなり近い。抱き締めた体が柔らかい。肩に乗せた顔が…熱くなる。
俺、らしくねえ。何やってんだ急に。何動揺してんだ?

「……わざと」
「え?」
「わざと置いたのに、礼とか言うな、よ」

罪悪感とかあったわけじゃねえけど、何となく思ったことを口にした。
「あ…そうだね」て耳元で響いて…この位置はヤバイと再認識した。
耳元に吐息が少し掛かった。耳元で志月の小さな声が俺だけに浸透した。
心拍数がどんどん上昇していく。馬鹿みたいに、俺らしくもなく、だ。

「……くそっ」

子供染みた行動、情けないまでの手段、それでも志月は気付かない。
こうして抱き締めてる事実があるのに、動揺はしても興味は持っていない。
俺に、俺自身に、コイツは興味とか持つ気すら無さそうで…だから耳元で告げた。
お前が俺だけに声を浸透させたように、俺もお前だけに浸透するように…

「な、に――…」
「本気だ」
「嘘、だ」
「俺様は…こんな時に嘘は吐かねえ」

浸透して、浸食されて、侵されてしまえばいい。
この俺に、この空気に、この雰囲気に、もう全てのものに――…



「お前が好きだから、わざと意地悪した」



吐いた言葉は撤回出来ねえ。
抱き締めた事実は簡単に忘れることは出来ねえ。
今ある腕の中にあるぬくもりを…簡単に手放すことも出来ねえ。

「俺と、付き合え」

例え返事が首を横に振る返事であったとしても、離しはしねえ。
こんなところで終わる恋は、してねえから。



END
短く簡潔にアッサリと終わる小話。


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