LA - テニス

06-07 携帯短編
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孵化するチョコレート



「亮ちゃん、約束のチョコだよー」

「ちゃん付けで呼ぶな。それに約束なんかしてねぇよ」

「嘘つき。毎年チョコ欲しいって言ってたじゃない」

「そりゃ幼稚園くらいの時の話だろ」

コイツは若気の至りっていう言葉があるのを知らないのか?

執念なのかは知らねぇげど、一昔前のことなんかを根に持って覚えてやがる。

毎年毎年、この時期になるとチョコを片手にそんな昔のことを掘り下げて…

日課か習慣かの勢いで、俺の手元へやって来ては平気でチョコを手渡す。

「毎年ながら大量だね」

「あ?跡部たちほどじゃねぇよ」

「亮ちゃんの"亮"は大量の"量"ー」

「違うだろ!何年幼馴染みやってんだ、お前!」

元気で活発で明るくて、人よりマイペースな分だけタチが悪い幼馴染み。

好き放題やって、馬鹿ばっかして、俺の方が気が気じゃない。

本当に心配ばかりさせる幼馴染みに、本当に俺の手を焼いて…

だけど、それは俺が勝手にしてるだけの話で。

こっちがどんな思いをしてるかも知らねぇで、コイツはただ俺の傍で笑ってる。

「かれこれ15年くらい?」

「だったら今更変なコト言うな」

「変なコトって…私、まだ告白してないよ?」

「そうじゃねぇだろ!」

ロマンの欠片もねぇ。少しは"俺"を見て欲しいと思っているのに。

忍足じゃねぇけど、ちょっとはロマンチックとやらに興味を持てよ。女だろうが。

映画を観に部屋に来たかと思えばアニメだったり、特撮系だったり、ホラーだったり。

たまにはそういうのに目覚めて、それで…自覚して欲しい。"俺"という存在を。

「何が違うの?最近の亮ちゃんは掴みにくいなぁ」

「……俺はお前が掴めねぇよ」

子供の頃のまま、ただ見た目だけが成長したような存在。

俺はそうじゃないから、だから余計に心が張り詰めていくような感覚を覚える。

もうずっと、ずっと以前から、ただ見守ることに不満を感じ始めていた。

彼女は何も知らない。伝えたとしても、きっと伝わらないと思って…

「私は何も変わってないよ?」

「そうじゃなくて…」

「ずっと、亮ちゃんが好きだよ」

彼女の告げた"好き"と、俺の邪念うずまく"好き"は違うもの。

結局、わかっちゃいないんだ。そんな"好き"では俺はダメだということに。


「ずっと、好きだよ。鈍感な亮ちゃんが」


それだけ告げて廊下を走り去る彼女は、俺の見てきた女の子ではない気がした。

ラッピングされた箱を開けると、いつもと同じハート型のチョコレート。

だけど、ほのかにアルコールの混じった大人な香りがしていた。




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