LA - テニス

TRAGIC LOVE
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この下らないものから脱出する方法はたった一つだと忍足は言ってた。
それは…最後まで生き残るか、最初から無かったことにするか。
誰もが生き残る手立てなどないことを知っていたから、選ばざるを得なかった。
生きるか、死ぬか――…


「……随分、重装備だな」
「……まあね」

命果てていく仲間たちから一つずつ…
貴重なものを扱うように彼女が「遺品」を手にしていたこと。
最後まで生き抜いた者だけが知っていた。
無い者にしないために、此処で生きたことを証明するために、
彼女は僅かな涙を流しながら、震える手で手にしていたのだろう。

笑ってる顔の方が好きだ。皆、そう思っていたはず。
だけど、彼女を笑わせる術など…こんな所にはなかった。

「今日で最後、だな」
「そうだね」

誰が彼女を殺せようか。誰が彼女に銃口を向けることが出来ようか。
出来ないから…泣きながら「他」を選択していった。

鳳は宍戸に、向日は忍足に。ジローは樺地に、日吉に忍足に。
滝は宍戸に、忍足は樺地に。宍戸も樺地に。樺地は…俺に。
共通した一つの約束を、まるで伝言ゲームのように伝えながら…

最期の願い、それが俺が叶えなきゃならねえなんざ…うんざりする。
何処までお前らは俺様を頼ってやがんだ?

「覚悟はいいのか?」
「そっちこそ」


――ゆいさんを…守って…皆の…願い…です。


「皆が待ってるぜ」
「それはお互い様、でしょ?」

息も絶え絶えに樺地が最後の伝言を告げた。
どいつもこいつも馬鹿ばっか。最後まで他人の心配しかしてねえなんざ…
だから、俺は叶えなくてはいけない。残った最後の者として、部長として。
今まで俺様は約束を破った試しはねえって…胸を張って言いてえよ。
……仲間が待っているのは、この俺だから。

「跡部」
「何だ?」
「最期に言いたいことはある?」

ある。山のようにあるが…何一つ言えるはずがない。
頭の中は真っ白。言葉も文字も急に忘れちまったかのように…真っ白。
俺らしくもねえだろ?生徒会長とかやってたくせに意味ねえよ。

「……お前はないのか?」
「最期に、言うかもね」
「……そうか」

彼女が手に持つ銃は恐ろしく不似合いなものだと穏やかに思う。
樺地が持っていた銃で…その引き金は俺に向かって引かれるはずだった。
それなのに、アイツは俺を撃つことなく合図と共に銃を放っていたのが見えた。
相変わらずの無表情で、不似合いな涙を流しながら…

「私は迷わず撃つよ」
「心配するな、俺も迷わず撃つ」

空砲だからな。迷わず撃つことが出来るぜ。

「私は…跡部を恨んだりしない」
「当たり前だろ。俺だって…恨むつもりはねえ」

最期の約束だからな。守らねえと逆に恨まれんだろ。

大きく深呼吸をすれば生温かい風に乗って仲間の血の香りがした。
本当に不似合い極まりない戦場に残されたもんだとつくづく思う。
あまりにも不似合いすぎて…夢じゃないかと思うくらいに。

「カウントダウン後に撃つ、それでいいな?」
「ベタな決闘みたいだけどいいわ」

でも、これは夢なんかじゃないと言わんばかりに重い銃。
きっと、彼女もその重みで現実にいることを知っている。
片手では引き金は引けそうにない。だから大事そうに両手で持って…

「3、2…」


1を告げた時、彼女は俺よりも早く引き金を引いていた。
俺が正面を向く間もなく…振り向いた時にはただ微笑んで言葉を紡ぐ。


「ありが、と」


何のお礼だよ。何で今になって笑ってやがるんだよ。
俺が愛おしいと思っていた笑顔。此処では似合わねえんだよ。


「ゆい!」


血溜まりの中、彼女は透明な涙を流しながらも微笑んでいた。
満足そうに微笑んで…彼女の宝物たちはその周囲に散布していた。
大事に手にしてたくせに…いきなし手放すのかよ。置いとくのかよ!


「俺に約束破らせる気か――…」



もう誰も傷つけさせない 晩霞


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