LA - テニス

TRAGIC LOVE
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皆、泣いてた。最期の最期の瞬間まで泣いてた。
それもそのはずだと思う。少し前まで友達で仲間で大事な人で…
違う。こうなってしまった今も、誰もが大事な人のまま。
それでも突きつけられた選択肢を選ばざるを得なくて、だから泣いてた。

生温かい風と共に流されて来る生臭い匂い。
怯えて、震えて、それでも涙は枯れないと知った。
同時にもう何処へも戻れないことを知る。助けなんて来ない。

長太郎と岳人から貰ったペンダント。
宍戸から貰った帽子、忍足から貰った眼鏡。
ジローから貰ったお菓子のオマケ…
樺地からも日吉からも萩之介も小さなものを一つずつ。
私だけが譲り受けて…たった一人、此処に地に居た。



「……随分、重装備だな」
「……まあね」

もし、私が倒れたなら何があげられるだろうか。
そんなことだけを考えて…あっさりと一晩が過ぎた。

「今日で最後、だな」
「そうだね」
「覚悟はいいのか?」
「そっちこそ」

ねえ、覚悟って何だろう。何で覚悟が必要なんだろう。
選ばれなければ何の覚悟も要らなかった。
最後まで残らなければ、そんな覚悟も必要が無かった。
誰も、私を選ばなかった。最後を飾るために…

「皆が待ってるぜ」
「それはお互い様、でしょ?」

傍観するだけの日々の中で見て来た涙は、綺麗だった。
誰も誰かを恨んではいなかった。仲間を恨んだ人なんて居なかった。
誰もが泣いて、綺麗な涙を流して、そして消えた。
頭が真っ白になっていく様子をただ眺めて…私は泣かなかった。

「跡部」
「何だ?」
「最期に言いたいことはある?」

泣いたら肯定することになる気がした。
傍観しているだけの私が泣いたならば、全てを肯定することになると思った。
長太郎は宍戸に、岳人は忍足に。ジローは樺地に、日吉に忍足に。
萩之介は宍戸に、忍足は樺地に。樺地は宍戸に。樺地は…跡部に。

「……お前はないのか?」

私だけが除け者のまま、最期の最期まで見届けた。
置いていく。受け止めさせられる。涙も流せないままに…

「最期に、言うかもね」
「……そうか」

今、何故こんなに穏やかな会話をしてるのだろうか。
互いに握っているものは決して穏やかな代物でもないはずなのに。
跡部が持っているのはトカレフTT-33。
私が握っているのはワルサーPP。
樺地が打てなかった、銃。

「私は迷わず打つよ」
「心配するな、俺も迷わず打つ」
「私は…跡部を恨んだりしない」
「当たり前だろ。俺だって…恨むつもりはねえ」

終わらせよう?あまりにも残酷なことだから、私たちの手で。
皆、私にその幕を引かせたくて選ばなかったんだと…思いたい。

「カウントダウン後に打つ、それでいいな?」
「ベタな決闘みたいだけどいいわ」

一歩ずつ後ろに下がって、振り返って打つ…なんてことはしない。
カウントする前からお互いに銃は構えてる。お互いの急所を狙って…
フライングだって出来る状況下の中、跡部は律儀にカウントを始めていた。
ゆっくり、ゆっくり。その声はまるで子守唄みたいに聴こえるよ。

「3、2、1…」



私は貴方を傷つけられない。
傷つけられるのは痛みを知る自分だけ。
あまりにも律儀すぎて笑った。泣きながら、笑った。

「ありが、と」

もう一言…言えるなら謝りたかった。
置いてく自分。受け止めさせる自分。解放される、自分。
本当の犠牲者は、跡部。

それでも…もう誰も傷つけさせない。



もう誰も傷つけさせない 晩霞


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