LA - テニス

TRAGIC LOVE
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Co-Dependency



女郎蜘蛛と黒蝶


明かりを失くした部屋。
暗い場所に慣れすぎたせいだろうか?
カーテンから漏れる光は今の俺には毒で…
夜目は光を拒絶する。

張り巡られた緊張の糸のなか、ただ呼吸を繰り返していた。
ココへ来てどのくらいの時間が経ったのか…
それすらわからないままに衰弱していく自分を
傍にある鏡で観察していた。


「本当によく似合うね、ソレ」


黒服の少女が指差す代物は…
俺の首、腕、足に繋がれた鎖だった。
俺がココから逃げないように腱までも切って…


「足、変色してる」


それもそのはずだ。
もう痛みすら感じなくなった俺の足。
動かすことすら出来ずに、ただ朽ちるのを待つだけ。


「言葉も話せなくなったの?」



なぜ、こんなコトになったのかはわからない。



ただわかっていることは…
きっと、生きて太陽を見ることは出来ないというコト。

だってそうだろう?

羽根を捥がれた蝶が蜘蛛から逃げる術は…
皆無に等しい。


「面白くないなぁ」

「だったら…殺せばいい」

「それはダメ。私、自分の玩具を壊す気ないもん」


嘘吐き、だな。
床に散らばっているのは、玩具のカケラ。
バラバラになってしまったら…
お前にとって意味がない代物と化するのだろう?


「じゃあ、君は…どうしたいんだ?」


死を覚悟出来た時、
人間というものは強くなるか、弱くなるか…
俺の場合は強くなれた。
最後の最後まで自分でありたいから…


「俺はきっと死ぬ。その後はどうするんだ?」

「…乾君は死なないわよ」


死なない…か?
それも嘘、だな。


「だって、アキレス腱を切っても生きてるじゃない」

「ココは切れても生きていける」

「血だって…たくさん流れてても生きてる」

「君が動脈を切らないからだ」


その証拠に俺は…
衰弱を来たして震えが止まらない。
きっと…冷たくなるのも時間の問題だろう。


「俺は死ぬよ?」

「死なないわ」

「そう…」



いっそ…
殺してくれれば楽だろう。
どれだけ楽になれるだろうか…。



いつの食材で作られたのかもわからない料理。
口元に近づけられただけで吐き気がする。

激しい腐敗。

苦情だって、後を絶たないマンション。
きっといつかは…
警察が訪れるのにそれまでに俺は生きてはいない。
そんな気しかしない。


「食べないの?」

「生憎、俺は蜘蛛じゃないんでね」

「…クモ?」


きっと彼女は女郎蜘蛛。
大きな体を持ち、餌を狙う…蜘蛛。
俺がこの糸を揺すれば揺するほど…
うまく俺を餌になるだろう。


「君は狂ってる」

「そんなコトないわ」

「いや、この腐敗した場所で…一人狂っていくんだ」


揺すって…
上手く左右に揺らした時…


「…どこが狂ってるっていうのよッ」


俺はきっと…
彼らと同じ餌になる。


「この料理は…」

「狂ってなんかないわッ」

「君が殺した人のモノだから…」


壊された玩具。
もうモノとなってしまった人形。


「分解したって話すことはないんだ」

「そんなコトないわッ」



だから俺も…逝かせて?



「だったら、俺で試してみればいい」





鏡に映る俺の姿。
今日で見納めとなる。

でも…
俺らしい生き方をしただろう。

君を観察して…
君のコトを知って…



「さよなら、可哀想な人…」



振るい立てる刃を見つめても迷いはしない。





可哀想な…女郎蜘蛛。
本当は寂しかっただけなんだろう?

でも…
それ以上に…
俺は解放されたかった。

この絡まった糸を伝い、
這い上がることは出来ないと知った日から

ただ、解放されたかっただけだ。





END
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