LA - テニス

TRAGIC LOVE
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Depression-Syndrome


取り返しのない未来。
泣いても、泣いても取り戻せない未来。

今更だと思う。

泣いてもわめいても
懺悔に近い祈りは届かず、悔いる気持ちは消えない。





ウソツキ





『死にたいなら一緒に死んであげる』

綺麗な微笑み…それがゾッとした。
口調は信じられないほど穏やか。
まるで子供をあやすかのように彼女は言った。

重く張り詰めた。
支配される感覚は恐怖に似ていた。


『私の気持ちは重いから…』


最初にそう言った時はわからなかった。
だけど、今ならわかる。

絶望、奈落、諦め…

そんな彼女に光を、それが傲慢だと知りながら…
優しいまでの嘘だと思っていた。





「ゆい、また入院したんだって?」
『…今度は長く掛かりそうだよ』
「お見舞いは…」
『家族以外は受け付けないって』
「そう…」

純粋に心配した。
でも、少しだけ安心もした。

外の世界は毒で、荒んでいくばかり。
特に彼女にとっては拷問にも似たモノがある。
光さえ見出せたなら、そんなに悪いモノでもないと…
僕は思っていた。

「同じ部屋の子とかは?」
『いる。同じくらい。よく話してる』
「何か欲しいモノはある?手紙とかは平気なんだよね?」
『うん』
「何か送ってあげるよ。何がいい?」


――何もいらない。


彼女はこの世界に望むものなんてなかった。
それを知っておきながら…
僕は彼女を必死で救おうとしていた。

傲慢だと知りながら。

「手紙書くし、電話もまたするよ」
『うん』
「長電話してごめんね」
『うん…』

語尾が小さくなる。
たくさんの不安を抱えているのがわかる。

『……周助』

僕の名を呼ぶ声だって小さく。
何を求めているのか、わかっているから…

「…大好きだよ」

そう言って電話を切った。





知っていながら…
わかっていながら与えることのないモノ。
彼女だって賢くないわけじゃない。


ないものねだり、
彼女はよくそう言っていた。


生きることを拒絶していた。
それでも僕は生きて欲しかった。
そんなに悪い世界じゃなかったから。

それが例え…
彼女にとって地獄のようなモノであっても
僕のエゴでしかなくても
生きて、欲しかった。





重くのしかかるモノ。

だけど、もう手放すことは出来ない。
俺の気持ちを持って、救えるモノであるならば…

救いたかった。



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