LA - テニス
□TRAGIC LOVE
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嫌いだって…ハッキリ言ってもらえたら気が済む恋愛もあると思う。
嫌いだよ。
『私がココに来る理由は、観月が好きだからだよ』
そう口にしたのは、かれこれ一ヶ月前の話。
好きって気持ちが募りすぎて…気付けばいつも彼の部屋にいた。
『…もう寂しくはないでしょう?』
部屋に押し掛ける度に、彼はそう言って苦笑していた。そんな彼に私も苦笑するしかなかった。
私も彼も今年の春に聖ルドルフ学園へと編入して来た仲間だった。しかも同じ学校から…。
彼はテニスで引き抜かれ…補強組というカタチで編入し、私はただ単に親の転勤に付き合った先がココとなっただけだけど…運命めいた縁を感じていた。
…だけど…
「観月ッ。お菓子足りないよ。隠してないで出すッ」
「ココはコンビニじゃありません。それに隠してなんかいませんよ」
告白した答えはないまま、友達を続けている二人の関係…。
それが辛い
「観月…」
「はい?」
「…何でもない…」
私が彼の肩にもたれかかっても、彼の体の一部に触れたとしても、彼は動じることもなく普通にしている。
それは…私ではいけないという最大の証拠?
「…また寂しがりですか?仕方のない人ですね」
「…それとは違う」
私の言っている意味は彼には通じない。
彼はただ、なだめるかのように私の頭を撫でる。
私は確かに
『あなたが好き』
そう言ったはずなのに
なかったコトに
されてるのかな?
それって
…痛い…
私は不意に立ち上がって、彼を笑顔で見下ろした。
「じゃ、そろそろ帰るね。いつもありがと」
「いえ。非日常的な生活をありがとう」
泣きたいのを…帰りたくないのを我慢して、私は彼に背を向けた。
「…おやすみなさい」
いつもやって来るこの瞬間、どれほど引き留めて欲しくて…どれほど泣きわめいてでも傍に居たいか…あなたにはわからないと思う。
「はい。気を付けて下さいね?それから、また来て下さいね」
「…うん」
背中から聞こえる声に、私は後ろ髪を引かれる思いに振り返ってしまう。
「じゃ、ねッ」
わざと元気に振る舞って、私の内部を見せないようにしても…。
「……」
体は正直で…いつもキツく目を閉ざして涙を消そうとして歩く。
それを彼は知らない…。
歩く足取りは重く、だけどいたたまれなくて速くなる。
『また来て下さい』
そんな優しい言葉なんか掛けないで?
…私はすでに…
限界を越えている
「…もう…ヤダ…ッ」
その言葉はあなたに届くわけもなく、この涙はあなたに知られることもない。
『嫌いだよ』
その一言を吐いてくれたなら、どれほど私が楽になることか…。
楽になるのに…。
宙ぶらりな私の気持ちは、逆に吊られているらしく…いつもあなたの方向に集まっている。
吊された男が、脳に血が溜まるかのように…。
その私を吊している糸を断ち切ってくれたなら、きっと私の体は落下してゆき、昇っていた血も冷めていくわ。
痛いほどに
今
それを望んでいる
自分の姿が見える
「…どうしたらいいの…?誰か…教えて…ッ」
一言でいい
その一言だけで
私は解放されるの
望みを持つことは
もう疲れちゃったの
だから言って?
『嫌いだよ』
…って。
END