LA - テニス

TRAGIC LOVE
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君が事故に遇った日、僕は試合をしていた。








不慮の事故








僕が病院に駆け付けた時、君の手術は終わっていて…腫れ上がった顔と青ざめている表情が、いつもの君を跡形もなく消し去っていた。



「…ゆい…」



頭蓋骨骨折。
顔の右半分が潰れて…目はきっと失明している。

意識を取り戻すのは…二、三日では不可能だと誰かが囁いた。







「命が助かっただけ…よかった…」



彼女の両親はそう言いながらも落ち着いた様子はなく、涙を流していた。





急いで試合を見に来てくれようとしたらしく、慣れない自転車を使って来てくれようとしたんだ。

見通しもよかったはずなのに…運が悪かったのか、右折して来た4トントラックのフロントガラスで頭を打ったらしい。

めったにあるはずのない事故…まさしく不慮の事故…。








意識不明の重体。
次の日の新聞にそう書かれていた記事を見つけた。
彼女の名前は『A』としか書かれていなかった。



事の大きさが身震いとして伝わる。





取り留めた命だけど…その口にくわえさせられたチューブは、いつになったら外されるの?


栄養剤を流すために繋がれた点滴は、いつになったら外されるの?


頭に巻かれた包帯は?


胸に付けられた心電図は?






……。











長い戦いの後に

君は…

以前と変わらぬ笑顔を

見せてくれるの?






僕は泣くことも怒ることも悲しむことも…何も出来ずにただ呆然としたまま、一週間が過ぎ…一ヶ月が過ぎ……。








時間だけが

僕の周りに流れ



僕だけが今

取り残されていた














「ゆい、不二君が来てくれたわよ」

彼女の母親がそう言って、僕が来たことを耳元で知らせている。


それでも…。


「…ゆい。僕たち…今、全国大会に行けるように頑張ってるんだ。だから、君も…早く戻って来て…僕の試合を見においで…」

彼女は少し微笑んだように見えた。







END
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