LA - テニス
□TRAGIC LOVE
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すきなんて
いえないです…
す き
「遊びに来たよ〜」
夜中に窓から部屋を抜け出して、隣の家のベランダに侵入するのは当たり前。
「また来たんだね」
苦笑しながらも、結局は笑顔で私を迎え入れるあなただから、私は何度も足を運んでしまう。
「新しいビデオ借りてきたから、一緒に見ようよ」
「もしかして、まだデッキ壊れてる?」
「バレた?」
彼の部屋に上がり込んで、自分の部屋みたいにくつろいでは遊ぶ。
それが私の中の唯一の楽しみと化していた。
「ま、いいよ。俺もコレ見たかったし」
「秀ちゃんと私、気合うよね」
「うん」
借りてきたビデオを手渡し、彼はデッキへとビデオを送り込む。そして、再生ボタンを押す。
私と彼の年の差は三つ。
中一の私と中三の彼は、横に並ぶと兄妹のようなカンジ。顔は似てないけど…。
私は彼の部屋のセミダブルのベットに転がる。
「またベットを占領するわけね…」
「ココは私の植民地にします♪」
こんなに図々しくても、優しい彼は怒りもせずに笑顔で見つめる。
他人に優しいから、他人の私はその優しさに甘えてしまう。
彼は私に恋愛感情すら抱いていないから、私も安心して傍にいてしまう。
でも…。
「あ、そのまま寝たら駄目だよ?見たら帰らないといけないからね」
恋愛感情すら抱いてもらえないことが悲しい。
「眠くなったら寝るよ」
「それは駄目」
「何で?」
「両親が心配するし、泊まり先が俺みたいな男の家っていうのは駄目」
ビデオを見ながら、彼は静かにそう言う。
言いたいことはわかるの。感情は抱かなくとも異性だから…。
でも…もう少し…私のコトで困ってみせて…?
それは駄目ですか?
「ホラ、寝ないのッ」
ポンッと頭を叩かれ、目を閉じ掛けていた私を彼が起こす。
「痛い…」
「寝たら駄目だよ」
微笑みながら、私を見つめる目が余計に私を捕える。
「いつでも来ていいから、泊まるのは駄目」
優しさを与えてくれるから、私の心はこの場所から離れない。
「はぁい」
「イイ子だね」
曖昧な返事でも、彼は微笑んで応えてくれる。
…ずるい…
強く拒絶してくれたなら、私も遠慮する。来る回数も減る。気持ちも…膨らまない。
期待してはいけないのに、いつか…私の存在を…私を一人の『女』と見てくれて…彼女にしてくれるんじゃないか…って思ってしまう。