LA - テニス
□TRAGIC LOVE
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誰でも軽く死にたいと願うコトはあると思う。
「あ〜死にてぇ…」
思うコトはあっても、実行に移さなかったら問題なんて…。
―願 望―
「何、馬鹿なコト言ってんのッ?」
「あ…何だ。ゆいかよ」
屋上で空を仰ぎながら、横から喚く女に俺は溜め息をついた。
ゆい…青学テニス部のマネージャー。
「死んだら、何の意味もなくなるじゃんッ」
「意味…なぁ…」
今、生きている意味すらわからず、ただ生きているだけの俺。
テニス部員として練習していても、レギュラーにもなれずにいる俺。
『俺』に意味はあるのか?
答えのない質問は当然、答えなんかなかった…。
「お、堀尾。おもしれぇモン持ってんじゃん」
「あッ!!」
部室に入るなり、堀尾が自慢気に見せびらかしているモノ…。
「バタフライナイフか…」
綺麗に研がれているナイフは、自らを主張するかのように妖しく光る。
「未成年がバタフライナイフか…銃刀法違反だぜ?」
数々、起こった未成年者の…少年犯罪のせいで、刃物を未成年者には売ってはいけない。そんな法律が出来たっけ?
「もう持って来ないんで返して下さいよッ」
「……」
『魔がさした』
それはこのコトを指すのかもしれない。
「荒井…」
「近付くなッ」
「あ、荒井先輩…?」
「…こんなモンで死ねるんだよな…」
腕のラインに沿ってナイフを動かせば、肉は裂けて血が噴き出した。
「簡単に…」
「荒井ッ」
部室に入って来たゆいがカバンを床に落とし、部員を掻き分けて俺の目の前に立った。
「馬鹿な冗談は止めて、ナイフを置きなさいよ」
「…冗談?」
血の滴る腕を舐めてみたら、鉄のような味がした。
「それ、私に渡しなさい」
「…何でだ?」
「渡しなさいッ」
「近付くなッ」
――ズプッ。
鈍い音と感覚…。
「…弱虫…次…死に真似なんかで…死のうとしても…私…は…助けてあげないん…だからね…」
記憶がフラッシュバックする…。
突っ込んで来たゆいと揉み合いになって…ナイフが…ゆいの体に突き刺さった。
「ゆい…?」
「あ…でも…きっと助けちゃう…かも…」
「ゆいッ」
好 き だ か ら
ゆいの体は崩れ落ちた。
「人殺しッ!!」
最後に聞いた言葉は、誰が発したかもわからない…この言葉だった…。
俺は死にたいなんて…死のうなんて思っていたなかった。
ただの自殺の真似事で…大罪を犯した。
…でも…
今なら本気で……。
END