LA - テニス
□TRAGIC LOVE
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実感
人の死ってあっけないっていうけど、本当に笑っちゃうくらいあっけないってこと、ようやくわかったよ。
葬式に参列するのは初めてで、周りがみんな泣いていて…俺は実感もなく歩く。
『キヨッ!!』
後ろから今でもそんな声が聞こえるから、いつまでも錯覚に思えるのかな?
「…ゆい?」
振り返った先に、君の姿なんかはないけど…。
どこにもいない
棺の前、いつも以上に白くて綺麗な君がいた。
「清純君が…来てくれてるわよ…ゆい…」
棺に向かって、おばさんは涙を流しながら語り掛けていて…。
「おばさん…」
魂のない『ゆい』という人形は、反応すらしてはくれない。
「ゆい…」
その肌に触れても…温かくもなければ、いつものような罵声すら聞こえてこない…。
『ちょ…ッ。くすぐったいから…触らないでよ…キヨッ』
いつでも俺が触れる度にそう言って、でも抵抗もなく受け入れてくれて…。
『キヨだから…こんなこと出来るんだからッ』
これがいつもの君の決まり文句で…。
目を醒まして
「ねぇ…そろそろ起きてよ。俺、ゆいが起きないなら浮気とか…しちゃうかもしれないよ?」
答えはなく、実感のない頭よりも先に…涙が溢れて…。
「いつもゆいが怒って…喧嘩すんのだけはヤだったから……口利いてもらえないのはヤだから……だから起きてくれよッ!!」
棺を揺らし、彼女の体を揺らしても起きなくて…。
「千石ッ!!」
「離せよ…こいつは目醒ますんだよ…生きてんだよッ!!」
手枷が付いたかのように重いと思っていたら、近くの人から押さえられていて…そのまま会場から追い出された。
何度も、何度も、何度も…。
ゆいの傍へと近付いては追い出された。
そして
彼女は棺ごと
連れ去られた
『キヨ…』
最後にそう呼ぶ彼女の声は、消えるような…悲しみをぶつけるような声だった…。
END