LA - テニス

TRAGIC LOVE
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いつしか彼は、私の目の前から消えた。






―幻に恋した少女―






「あッ!あの人、カッコイイッ!!」

都大会の日に見つけた山吹の選手。

「ねぇ、桜乃ッ!あの人、良くない?」

「あ…あの人、リョーマ君に怪我させた人らしいよ」

「えぇッ?」

「山吹中三年、亜久津仁」

亜久津仁…。
鋭い目線に均等の取れた体格、そして嫌味なく立てられた髪。

みんなが王子様と呼ぶ、青学のレギュラー陣よりもカッコよく見える。

「亜久津仁…かぁ…」

「ゆい…まさか…」

「そのまさか♪」

私は桜乃に笑いかけた。




一目惚れとは、こんなコトを言うのかもしれない。





でも、彼は二度とテニスコートには現れなくなった…。









「ちゃんと病院に行くのよッ?」

「わかってるってッ」

母親にそう言われて、私はしぶしぶ大学病院へと行くハメになった。

原因は昨日の部活。
練習の時に捻った足首が、一晩過ぎたら二倍にも腫れ上がっていたのだ。

ヒビが入っているかも知れないから…と一種の脅しを掛けられて病院へと来た。

「はぁ…」

大きな溜め息が出てしまった。





あの日から現れない亜久津仁。

それが気になって、私は元気というモノを失いかけていた。





『志月ゆいさん。七番にお入り下さい』





ようやく呼ばれた私は、また溜め息をついて診察室に入った。

レントゲンなどの結果、ただの捻挫だった。

心配する程のモノでもなく、私はまた溜め息をついた。





その時だった。





「…ッ!?」

私は息を飲んで、擦れ違い様に別の診察室に入る人に目を奪われた。

「あの人…」

思わず、看護士さんたちが待機する受付所へと駆け込む。

「すみませんッ」

「ハイ?」

「あの…私、さっき…そこの診察室に入った人の友達なんですけど…彼の病気…」

「そのお友達の名前は?」


「亜久津…仁君です」


確かに見た。
間違いはない。
だけど…。


「亜久津君ね…」

看護士さんは少し俯きながら私から目を逸らした。


普通だったら、本人の許可なく病状を教えてはくれない。
だけど、私がよほど真剣だったのか、その看護士さんが私に教えてくれた。



「彼…精神的ストレスからくる脱毛症でね…週に一回は治療に来てるの…」



「え…」

「彼に会ったかしら…体中の毛髪が抜けてしまって…」


確かに彼には髪の毛どころか、眉毛も睫も見当たらなかった。

だから、私は驚いて…彼の後ろ姿を追った。



知らない方がよかった。



会わない間に美化された記憶は、音を立てて崩れていった。



あの日の彼は消えてしまった。





私は、きっと幻に恋したんだね…。



「さよなら、亜久津君…」








END
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