LA - テニス

TRAGIC LOVE
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Like a Angel




気が付けば

いつの日か…

窓のない部屋で

膝を抱えていた。



――軽い鬱病。


全てのことが嫌になり、意味もなく泣いたり怒ったり…そう感情を露にする。

だが、誰も気付かなかった。

俺には表情がなかったから…。



君は気付いてたか?



俺には彼女がいた。

名前はゆい…。

名字は忘れてしまった。





――記憶喪失。






忘れっぽくなったのではない。ごく最近の一部の記憶がポンッと消える。

脳の何かの損傷。

何をしたのか

わからない。




――俺が俺でなくなる。





これが精神障害。
誰もが耳にしながらも、何もわかってはいない病。
治す術もなく、医者たちはさじを投げた。

誰もが知りながらも拒絶し、恐怖を覚え、偏見と化した目で見つめる。





――そんなお前たちも、精神が犯されている…。





何があったのか、私にはわからなかった。

ただ、手塚君の中で精神が崩壊した、と彼のお母さんはそう言った。

真っ白な病棟。
彼はそこにいる。
そう。
精神科病棟…。

「手塚君…」

彼から送られて来る手紙の内容は、明らかによくわからないものだった。



――天使の羽根を広げたい。

――聳える夢を飛び越えたい。

――息を止めて、もがくように泳いでたい。



彼の中に何があるのか、私には全く見えて来ない。





それでもわかりたい。


私はそう思って服を着替え始めた。



今日は彼と面会する日だったから…。





――精神科病棟。





「ゆい」

「手塚君ッ」

彼女はいつものように俺の所へとやって来た。

「少し痩せたんじゃないか?」

「え?」

「いや…そんな風に見えたからな」

実際、そうなのかどうかはわからない。
なぜならば、記憶が欠落してしまっているからだ。
記憶の喪失は彼女のことばかりだ。

「そんなコトないよ。ちゃんと食べてるしね♪いきなりでビックリしちゃったよ」

彼女はそう言って笑っていた。



本心からの言葉なのか、本当の笑顔なのかはわからない。


「そうか…ならいい」

俺は少しゆいとの距離を埋めて、その顔に触れてみた。



彼女の体がビクッと震えた。




「…怖いのか?」




――水を得た魚のように…胸が踊り出す…。




「て…手塚く…?」

「窓のない部屋で生きている人間が怖いのか?」

「ちが……ッ」

俺はベットに隠されたモノを取り出した。



先客者のモノ。
隠されたナイフ。
窓を削ろうとした跡。





――Crazy?





光るナイフは彼女の喉元を抉り、真っ赤な血が噴き出した。
彼女の悲鳴はどこまでも、この白かった部屋に染み渡って行く。


「…くく…」


俺は何度も何度も、至る所を刺した。
生きて、息を吹き返すことがないように…。


それは豆腐を包丁で刺す感覚とよく似ていた。







ゆい…君はこの世界がどう見えた?


俺の世界が少しは見えただろうか…。


ただ真っ白で、気が狂いそうな世界…。





俺に怯えただろう?


それが合図。


君が天使のように飛び立つ…。





俺も後から追ってやろう。


天国の門は、一人より二人の方が楽しく潜れるだろうから…。





――光るナイフを自分に突き立てた。








END
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