LA - テニス
□TRAGIC LOVE
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finale
私は待ち合わせ場所で彼を待っていた。
付き合い始めて一ヵ月。
ようやく漕ぎついたデートに浮かれて、待ち合わせ時間よりも早く着いていた。
「早かったかな」
腕時計を見つめて私は一人呟く。
実は彼が自分よりも遅く来て、慌てる姿をみたいような気がして、ソワソワと彼が来る方向ばかりを見つめていた。
――二時間後。
彼は待ち合わせ場所には来なかった。
私は携帯を取り出して電話してみるが、取られることはなかった。
だって、彼はもういなかったのだから…。
「薫ッ」
私が桃城君から呼ばれたのは総合病院の一室。
そこは片隅にある慰安室だった。
「…みんな…」
そこには薫の家族とみんなが集まっていた。
「ゆいちゃん…」
振り返った薫のおばさまは、綺麗な顔を涙でぐちゃぐちゃにして…。
「おばさま…」
「薫…さっき…」
それ以上、聞かなくてもよかった。
だって、ここは慰安室。
「薫…」
私はゆっくりとベットに近づいた。
そこには顔中に傷をたくさん付けた彼が、真っ白な顔をして眠っていた。
そう。
眠っているようにしか見えなかった。
━━慰安室の薫の遺体。
「い…嫌ぁッ」
私は泣き叫び、彼に近づこうとした。
でも、誰もが私を止めようとしていた。
傍にいた医者も看護士も、そしてみんなも…。
「先生ッ。麻酔を…ッ」
押さえ込まれた私の体。
腕に注射を打たれた。
「薫…ッ」
強い眠りが襲い掛かっても、私はずっと彼の名を叫び続けた。
――夢を見た。
そこは何もない枯れた道。
私は何かを捜して彷徨い続ける。
その先には、ただ大きな湖があった。
私はそこを覗き込んだ。
そこには私の顔ではなく、薫の顔があった。
彼は逆さまの微笑みを浮かべていた。
悲しそうな微笑み。
それを見ていて私も悲しくなった。
私は湖に手を差し伸べた。
彼に触れたくて伸ばした手。
でも。
彼は何も答えない。
ただ、静かに水面が揺れてる。
――薫ッ。
目覚めた場所は白い病室の一室だった。
そこには、おばさまが一人だけ座っていた。
「ゆいちゃん」
「おばさま…」
「あの子ね…昨日、眠れなかったみたいで寝坊したの。よっぽど急いだのね。だから…」
泣き腫らした目でおばさまは見つめる。
「…そんなに急がなくても…私はずっと居たのに…」
忍び寄る気配。
隣り合わせの生と死。
もう何も見えない。
「ゆいちゃんッ」
私はベットから飛び降りて、何も言わずに走り出した。
――finale
全てがあっけなく終わってしまう。
終幕へ向かう。
その日差しは眩しすぎて…
明日さえも見えなかった。
彼と一緒に通った道の途中の踏切。
ゆっくりとバーが降りてくる。
崩れゆく貴方を救えなくて
本当にごめんなさい。
私はそのバーを潜って飛び込んだ。
狂おしい程に貴方を愛しています。
この愛は、永遠に誰の手にも触れさせない。
それが…
神に背くことであろうと…。
END