LA - テニス

TRAGIC LOVE
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君のために流す涙




…どれだけ時間が経ったのか…オレにはわからなくなっていた。

ただわかることは、君がいないということだけ…。



薄暗い会場。
そこでは何人もの生徒たちが泣いていた。生徒だけじゃない。先生も彼女の親族たちも…。



オレだけ泣いていなかった。


泣いたら…彼女の『死』を受け入れたことになるから…。



一本の菊の花を誰かから受け取った。
彼女の柩に捧げるための花…。
悔しいくらい白く綺麗な花だった。




気付けば、オレは花を握りしめたまま、柩とは反対方向へと走っていた。



オレが最後に見た彼女は笑顔だった。
『またね』
そう言ってオレに背を向けた。


いつもの…彼女だった。



「…いつも…きちんと言ってやれなくてごめん…オレ…誰よりもアンタのこと…愛してたよ…」



誰もいない場所で天を仰いでそう言った。

大きな後悔と小さな懺悔。

もしかしたら、どこかで彼女が聞いてきれているような気がしたから…。




そう。言わずにはいられなかった。



「…彼女もリョーマ君のこと、最期まで愛してたよ」

「…アンタ…」

「伝言があるの」

彼女の親友だった子…名前は忘れた。


もう頭の中には彼女しかいない。
それ以外はどうでもいいから…。


「大好き。また逢えるといいね」


親友が涙しながらに言った言葉。


彼女らしい一言。


たった一言の伝言に…初めてオレは涙が出た。


本当に最期の言葉…。




いつも…こんなに『好き』をもらっていたのに…オレは返していなかったんだ…。


オレは菊の花を持って彼女の元へと近づいた。



いつもより白く透き通った肌…そして綺麗な寝顔だった。

「…伝言聞いたよ。オレも…ずっと言えなかったけど…確かに愛してたよ」

誰もが見つめているなか、オレは柩の傍に跪いてそう耳元で囁き、彼女の唇にキスした。

「……」

オレも彼女も何も言わなかった。




一瞬だけしか触れていない唇。でも、すでにぬくもりのない唇からは、彼女がココにいないことだけがわかった。


きっと、暖かな場所へいるはずだ。


オレは菊の花を彼女の手元に置いた。

「…また逢おうな」

その時、彼女が少し微笑んだ気がした。






END
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