LA - テニス

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「なあ、今年の大晦日にどっかの神社でカウントダウンしようぜ」
「うん、いいよ。てか、もうそんな時期かー」

と、放課後に「カラオケでも行こうぜ」と言わんばかりにサラリと約束を持ち掛けられて、私もサラリと返事をしてしまった後にふと気付く。
ん?何気に今年最後と来年の始めを一緒に過ごそう、と言われたことになるのか?と。
首を傾げ、それに気付いた頃にはすでに約束した相手は姿を消していて、予定は宙に浮いた状態になってしまった。

年末は特に予定は無かった。友達ともそんな話はしてないし、家でゴロゴロしながらカウントダウンだったと思う。
紅白は何となく観る気になれないから、おそらくお笑い番組を観て笑い転げる大晦日で色気もクソも無かっただろう。
でも…あーいやいや待て待て。確かにそのテのニュアンスで捉えることも出来るが、妙な乙女思考は止めておこう。
勘違いは嫌だし、みっともないのも嫌だし、期待も虚しくなるから、したくないし。

私と宍戸と言えば、それなりに友達で話したり遊んだりと良い付き合いをしてると思う。
たまたまその辺で会えば立ち話くらいはするし、何かあれば連絡を取り合うような仲でそれ以上でもそれ以下でもない。

ただ、ただ言うならば…私の密かな恋心はあるけど、宍戸には無いだけで。



『……い…おい、聞いてんのか?』
「え、あ、一瞬飛んでた!」
『おいおいマジ頼むぜ』

電話越しにイビキでも聞こえた日には録音するぞ、と脅しを掛けて来た宍戸に必死になって謝る私。
頑張って考えることを止めようとして、鳴らない携帯をただひたすら握って過ごすこと約1週間…今日は、その大晦日だった。

『で、お前んちの傍に神社あったろ?そこに行こうぜ』
「りょーかい。あ、でも結構人来るかもよ?」
『いいんじゃね?じゃあ、そこに10時待ち合わせでいいか?』
「いやいやーそこは迎えに行こうか、くらい言おうよ」
『行ってもいいんだぜ?それで困るのはお前だろ?』
「んー…」

困る困らないの問題を挙げるならそれは私だけじゃなく宍戸も困るんじゃ?

「宍戸も困るだろうからいいや。待ち合わせにしよう」
『俺は困らねえけど無難にな』
「え?」
『じゃあ遅れんなよ。それと馬鹿みたいに薄着してくんなよ』

プツッ、ツーツーという音と共に携帯の表示は通話切断になっていた。
「馬鹿みたいに薄着してくんなよ」に大きな突っ込みを入れるよりも宍戸の言った「困らねえ」に酷く引っ掛かった。
それは、そんな関係じゃないって否定出来るから困らないって意味なのか、誰に何を言われても気にしないって意味なのか、それとも…
いや、止めよう。妙な乙女思考は。あの口調からしても私の思う行き先には辿り着かない。あれは友達に対する言い方だ。

「……跡部とか忍足とかに感化されてんだろうな」

サラリと爆弾を落とす、サラリと人を勘違いさせる。そんな器用なことをナチュラルに教われる人材が傍に居るからなあ。
思いっきり溜め息だ。そういう風になってしまっている宍戸にではなく、そうだと分かっててそれでも心の切り替えが出来ない自分に。
勘違いしたくなきゃ逆に行かなきゃいいのに…ともう一人の自分が笑うけど、その選択肢も選べない自分に溜め息だ。

時計の針はまだ約束の2時間前を差していた。
色んな疑問を抱えつつも新たに浮上することとなった悩みに頭を抱えることになった。

「……何着ていけばいいんだ?」

勘違いは嫌だし、みっともないのも嫌だし、期待も虚しくなるから、したくないし。
そこまで心で確認しておきながら脳内は全く違うところで頑張ろうと努力していることに気付いた。
そういうのが女の子の可愛らしい特権だと言うんであれば…今は要らない。やっぱり自分が辛くなるから。

可愛い服なんか着ないでおこう。ラフで友達と一緒に居る時くらいの格好でいよう。
オシャレなんかしない。いつもの私で行こう。密かに恋してる、なんて誰にも知られないように――…


-密かにアナタに恋してる-

2010.11.24.


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