LA - テニス
□04-06 携帯連載
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ずっと夢見ていたコトがあった。
人形になる前に、ずっと願っていた夢…
夢は夢で、終わると思っていた。
だって、人の夢…それは儚いモノだから。
人 形 10
耳を塞いでも聞こえてくる声に、怯えて泣いていた自分。
助けなんて来ないと知りながら、懸命に叫んでいた自分。
いつか…いつか、夢が現実になることを祈っていた自分。
ああ。今思えば、いつだって私は…
「……目が覚めたか?」
「けい…ご」
「悪い。俺があの時、帰るように言わなければ良かったな…」
この部屋に、見覚えがあった。
私の嫌いだった白い空間じゃない。
モダンな景吾の部屋。
「すまない…」
この人は…
どうして、こんなに辛そうな顔をしているのだろう?
何を謝っているのだろう?
私なんかに…
疑問は沸いて、だけど何も口に出来ず。
ただ、掴んでいた。
「もう…大丈夫だ」
掴んでいた箇所は温かかった。
それ以上に、包まれた体が温かかった。
だから…泣いた。 あの日のように…
なぜ、この人は私の傍にいるのだろう?
そう思っていたのに。
今は…この人がいなければ生きていけない。
きっと、この人がいなければ…
私は呼吸さえも出来ずに死ぬだろう。
「……に」
「何だ?」
「傍に、居させて……ッ」
いつだって、私は感情ある人間だったんだ…
泣いて、泣いてすがるモノ。
ずっと欲しかったモノがある。
景吾はずっと、私の手を握っていてくれた。
初めて、家以外の場所で夜を過ごした。
片時も離れずに他人が、私のために居てくれた。
同じ時間、同じ空間、同じぬくもり…
そのぬくもりに抱かれて眠りにつく。
もっと強く…強く抱いて欲しいと願って…
次の日の朝。
いつもと変わらないはずの時間が…
「おはよう、ゆい」
「……おはよう」
同じベッドに変わらずに景吾はいた。
繋いだ手もまだ繋がれたまま。
額に触れた唇、柔らかい感覚が伝わる。
「飯は出来てる。今日は学校に行くか?」
「……」
「大丈夫だ。アイツはもういない」
「……いない?」
私の言葉に彼はただ頷くだけだった。
ゆえは自主退学をしたと聞いた。
もっとも、景吾がそうさせたのだろうと思う。
私はそれを喜ぶべきなのか…わからなかった。
少なくとも、平穏は戻るのかもしれない。
ゆえに出会う前の状態に…
学校はいつもと変わらず、普通だった。
誰も何も知らない、変わりのない状態だった。
だけど…
それに安堵している自分がいた。
帰りは景吾に送られ、家へ戻った。
祐希さんはいつものように微笑んで、私の帰宅を暖かく迎えてくれた。
携帯が鳴る。
景吾からメールが届く。
空っぽのメールを送る。
しばらくするとメールが返って来る。
また空っぽのメールを送る。
するとまた…
飽きずに懲りずに文字の入ったメールを送って来る。
初めて文字を入れてメールを送る。
"ありがとう" と。
"ゆっくり休め"
彼からの返事で携帯を閉じた。
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