LA - テニス

04-06 携帯連載
15ページ/91ページ


物言わぬ人形…

感情もなければ言葉も持たない。

持ち合わせるはずもなのに…




 形 07




変わり始めたのかもしれない。

少しずつ…現われて来る自分の変化。

それに違和感を抱かなくなって来ている自分がいた。


この場所で…


『志月先輩』『ゆいちゃん』…

私の名前を呼ぶ人に少しずつ反応し始める。





200人も部員のいる場所。

覚えたのはレギュラーとなる人物だけだとしても

私にとっては大きな変化だと思う。


「悪い、志月。そこのタオル取ってくれねぇ?」

「……はい」

言葉は少なくとも交わされて

それに伴って自分から行動していく。

「サンキュ」

返事だけの発言、行動、他人への意思疎通…

それを教わり始めている。

「もうすぐ休憩らしいから、その辺のヤツ使って準備しろよ」

「その辺…って俺のコトですか?」

少なくとも私の周りには必ずと言ってもいいほどに他人がいて

「別に?」

「……いつかは宍戸先輩からも下克上です」

自然に…

だけど、不自然に私を助けてはサポートしていた。

「じゃ、任せたぜ?日吉」



跡部の配慮だとわかってる。

跡部が手を回していることもわかってる。

跡部の力がそうさせているのもわかってる。

それでも…



「…そんな顔しなくても手伝わせてもらいますよ」

「……」

私を見て、言葉を繰り出す。

「女性には親切に、これが両親の言葉ですから」

ココでは人として、

人として尊重されたモノであることが証明されて…



人形ではない、と。



「ゆいちゃん、こっちおいでや」

忍足くんが手招きして呼んでる。

その傍には芥川くんに向日くん、宍戸くんに鳳くん…

とにかくいつものメンバー。

招かれることなんて今までにないコト。

呼ばれるなんて…アレの時以外にはなかったコト。

「今日はええ天気やん?一緒に日向ぼっこせぇへん?」

「ずるいよ、忍足。それ、俺が考えたコトだC〜」

「しかも軽くナンパみたいですよ、忍足先輩」

「跡部がブチ切れるぜ?」

「ヘーキやて」

どうぞ、と案内された一人分の空席。

そこに座って、自分用のジュースを開けた。

「今日は自分で開けれたな」

「……はい」

会話は成立しない。

返事だけ返すと…また私の言葉は閉ざされる。


こんな子と…

話して楽しいわけがない。

それなのにどうして?

どうして私をこの輪に入れたりするのだろう?


「……」

周りを見渡せば、みんな休憩中。

一人で座ってる人などなく、楽しそうに話している。

だけど…


「……跡部は?」


一人だけ姿が見えない。


「跡部だったら保健室だ」

「……え?」

「さっき怪我してもうてな。ほんで…ってゆいちゃんッ?」







――…無我夢中





――…無意識に





――…全力疾走








次へ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ