LA - テニス

04-06 携帯連載
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自分は変われても、過去は変えられない。

この関係もまた…不変的なモノだと知った。


どこまで堕ちていく?

もう、這い上がりたくはない。


消えない過去は、確かに私の中に存在していた。




 形 09




「お…義母さん…!!」

「クズは言葉なんかいらないわね」

「……!!!」

取り出された轡は、私へのプレゼントだと言った。

言葉を発しないようにするために、義母が用意したモノだった。

義母は笑っていた。ゆえも…

「あら。なかなか似合うじゃない」

泣けば泣くほどに悦ばれ、動くたびに首に付けられた首輪の鈴がなる。

まるで、飼い犬…いや、それ以下の扱い。

私は人としては扱われていない。

「あ、そうだ。言い忘れたコトがあったわ」

近づいた義母は嬉しそうな顔。

不揃いに切られた髪を引っ張り、笑って…

だけどその目は…私を憎み、恨み、さげずんでいた。

「貴方のパパ、養育費を月にいくらも払ってくれてるわ」

「俺にもお小遣いが送って来てる」

「だから、貴方の親権は私が持てって」

正式に提出された離婚届。

毎月振り込まれている多額の養育費。

実の父に放棄された私の親権。

私は…見捨てられていた。


「これがどういう意味だかわかる?」


泣いても、わめいても…

誰も私を連れ出してはくれない。


「アンタは私のお荷物…奴隷なのよ」






私は病んでいった。

着る服も与えられず、通っていた学校にも行けない。

周りの人は私は病気だと、心の病気で…

だけど、それは間違ってはいなかった。


嘲笑いながら、義母は私を奴隷として扱う。

時には殴られて血を流すこともあった。


夜になれば、義弟が私を犯す。

気が済むまで、何度も何度も何度も…


初潮を迎えた頃、ようやく下着の着用が出来るようになった。

"子供が出来るのは困るから"

生理の日以外は避妊をするようになって…





「ゆい?」

「………」

連れ戻されるのを恐れ、視界に義弟が映るのを恐れた。

頼るモノなどはなく、ただ不安で掴んだ腕。

それが跡部の腕だったとしても…離すことは出来ない。

「…平気か?」

知ることのない過去に触れられたかと思った。

知られてはいけない過去。

「……」

「今日は真っ直ぐ家に帰れ。部活は出ない方がいいな」

過去に舞い戻るのが怖いから…

他でもない跡部景吾にすがろうとしている。


"今は離さないで"

都合が良すぎで…自分から手を引いた。


「寄り道はするな。いいか?」


跡部の言葉に頷き、足先の方向を変えた。

部室に向かっていた足は校門の方向へ。

跡部に背を向けて…


「気を付けて帰れ」


跡部の言葉を背で聞いて…





白い病院の壁は眩しくて。

目の前には白いカーテンが揺れていて。

私は…泣いた。

「もう大丈夫だからね?」

私の傍に居て、私のために泣いてくれた女の人。

全く知らない人。

だけど、それがやけに嬉しくて…

感じたぬくもりは温かく、その人にすがり泣いた。


志月祐希さん、彼女の経営する施設。

そこが第二の私の家となった。


体中にあった傷は治って、私は人としての扱いを受ける。

だけど、心に残ったのは消えない傷で…

脳裏に残った言葉は、日に日に声量を増していく。


"アンタは奴隷、アンタは人形"


確かに私は奴隷で、人形だった。

その過去だけは消えずに、消えることはなくて。

自分を失っていく。




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