LA - テニス

04-06 携帯連載
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「…ゆい?」

「……ッ」


真っ白だった。


「どうしたんだ?怪我でもしたのか?」


自分がどんな行動を取ったのか、わからなかった。

自分がなぜ、ココへ来たのかもわからなかった。

そして、今…


「何泣いて……」


泣きながらも縋りついているのかも…

近づいた跡部に抱きついたのかもわからなかった。


「……ッ」

「心配したのか?」

「…っく…」

「…悪かった」

背中に回された手は優しく背中を撫でて

自分の手はしっかりと跡部の服を握り締めていた。

「……け…が……」

「擦り傷だ。大したコトない」

耳元で聞こえる声。

何度も『大丈夫だ』と告げて…

「…よか…った…」

自然にそう言っていた自分がいた。



無意識の行動。

反応した『怪我』という言葉。

無事を確認して安堵する。


でも…どうして?



「……んッ」



初めて近くで見た、跡部景吾の顔。

気付いたら間近に迫っていて、触れていた。

私の唇……



「……悪い」

「……」

体は離され、一定の距離を置く。

暖かかったぬくもり、今は急な冷たい外気。

流れていた涙は引いて、ただ呆然としている自分。

「戻るぞ、ゆい」

返事も聞かずに手を引かれ…

腕の長さの分だけ先を歩く跡部の姿。

振り返ることはない。

私も何も言わない。

ただ繋がれた手が一定距離を保ち、進んでいく。


「…心配してくれてありがとな」


小さく聞こえたお礼。

握られた手に少しだけ力が入る。





――…大事、だと思った。



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