LA - テニス

07-08 携帯短編
44ページ/80ページ


願はくは花の下にて春死なむ。そのきさらぎの望月の頃…バーイ西行さん。
我に小太刀の一本でもあれば討たれはせん…バーイ頼朝さん。

頭の中でぐるぐると辞世の句がリピートして、木手が何かを言っているのが全く聞こえない。
コンパスがどうのこうので握れた私の手。微妙に硬直して感覚すら麻痺ってる。
だけど…残虐非道、殺し屋と呼ばれる木手の手は…私の手よりも熱いのだけ分かった。



smile



手は簡単に振り解けるくらいの力でしか握られていないことには気付いていた。特に痛くも無いから。
だけど、振り解けないでいるのは…木手が抱えている大きなバックからこれまた大きなゴーヤが飛び出してきそうで怖かったから。
ゴーヤマンだよ、ゴーヤマン。そんなあだ名を付けたらコバーが笑ってたっけ。でも間違ってないって言われた。
いつ、どんな時であってもゴーヤ出すんだって。非常食にもならないゴーヤも持ち合わせてるとかある意味凄いよ。
だから振り解けないでいる。木手のゴーヤが怖くて、ハブよりマングースよりコーレーグースより怖くて為されるがまま…

「志月さん」
「は…?」
「……返事が悪いですね。まあいいです。君、門限とかあります?」

門限。門の限界と書いて門限と読む。門限とは、外出する際に夕方から夜間にかけて外出先から帰らなければならない時刻のこと。
えー…門限は50分以内ってとこかな。それまでに戻らないとクエストクリアにはならないわけで…って違う違う!それじゃねえ!
一人妄想の世界に溶け込んで思いっきり心の中で突っ込むも…まあ、色々と虚しい、ね。はい。
特に表立っての門限っていうのはないけど、基本的に夕飯までに帰るか途中で家に連絡するかはしてる。
ほら…私の分の夕飯作ってもらっておいて食べないとかすると、自宅で第二の木手みたいなのが降臨し兼ねないし。

「……あると言えばあるし、」
「ないと言えばない」
「まあ…来年はもう高校だしね」

いつまでも子供じゃないし、ちょっとくらいの夜遊びも許可して欲しい年頃だし?て前に母に言ったら「あっそ」て。
結構ゆるゆるした家庭に生まれて良かったと思ったね。むしろ、放任主義なだけかもしれないけど…
と、いうよりも逃げ場もないし、どうしようもないから間違いなく帰宅はするんだよ。と母も分かってのことかもしれない。

「とりあえず、家に電話した方がいいですね」
「……え?なん、で?」

ちょっと待て。今の流れからいくと…何か変でしょ。今から家に電話とかしなきゃいけない理由が!
門限はあるかないか分からない程度にあって、そんなことはさておいて早く帰るつもりでいるんですが私。
ゲーム待ってるし、下手したらドラマも待ってるし、夕飯も家族も待ち構えているんですのよ?
温かな家庭が私にはきちんとあって…死ねないんです!暗がり撲殺とか暴行とか死体遺棄とか困るんですよ!!

「先程、軽いものでも奢る…と言いませんでしたか?」
「……おっしゃいましたか?」
「ええ。君からゴーヤ以外で、と返事も貰いましたが?」
「……放ちましたか?」

のお!んな会話した覚えとか一切無いんですが!隠蔽…記憶の隠蔽か?
記憶の改竄が出来るほど木手は凄いヤツだったとは。要注意にもほどがあるね、さすが殺し屋。
だけど返事をした覚えがないと言い張れば、木手も負けずと私はちゃんと返事をした、と言って引くことをしない。
平行線、ていうのかな。この場合…木手が折れてくれても良さそうだけど…それもなさそうな雰囲気、だわね。

「君は自分の放った言葉に責任とかないんですか?」
「せ、責任とか言われても…」
「口にした言葉は消せませんよ」
「き、木手が忘れれば…」
「生憎、私はそこまでボケてはいません」

……ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。
ぼそりと呟いたら…に、睨まれました。めちゃくちゃ睨まれたんですが!

「とりあえず、家に連絡しておきなさい」
「命令!?」
「ゴーヤ以外で奢ると言ってるんです。文句言わずに来なさいな」

……そうか、命令なのか。全てにおいて命令なのか。
ポケットから取り出したるは我が携帯。いつもお世話になって可愛い子なのに今は触れたくないとか。
だって、ゴーヤマンの命令で電話するんだよ?その後、下手したら…この世とオサラバする可能性も否定出来なくて。
「そうそう。あ、でも…命っぽいのは欲しいんじゃね?」て、カンユが言った台詞がリピートされてく…
命っぽいの…ぽいのが何なのか分からないけど、命っぽいの引き抜かれんのは嫌っしょ。絶対、絶対に…

「どうしました?」
「いや…」
「ご家族に説明出来ないのであれば俺から――…」
「のお!じ、自分で説明出来るし!」

な、何言っちゃってんだ!このゴーヤマンは!コレ私の携帯で自宅はナンバーディスプレイ機能が何でかあって、
それでいて声が私じゃなくて木手だった日には…何事的なことになって速攻で警察署に駆け込むよ、ウチのオカンは!
「ウチの娘が不審者に…」なことになってみろ!瞬く間に色んな噂が広がって…ココに居られなくなるがな!
……と、言えないあたりが情けない。わなわな震えはしたけど、喉近くまで言葉は出掛かったけど、言えないですよね。

もう色々諦めモードで自宅の番号を打って通話ボタンを押してみる。
コールは大体数回鳴らせば途切れて、それと引きかえに我が母親の何とも営業的な声を聞く。凄い裏声ですよ…
「ゆいだけど…」と言えば地声に変わって、半ば微妙に事情を説明している最中には「はいはい」ていきなし切られた。
可愛い娘の心配をするわけでもなく、話も適当に流して聞いて、「アンタの分のご飯作らなくて済んだ」みたいな…

「……はあ」
「どうしました?」
「ハハンの在り方について考えてしまった…」

いや、心配してないこともないだろうけどさ、もうちょっと言い方だとかはあると思うんですよ。
確かにウチは放任主義ではあるけどもこう…愛が足りないね。言葉に愛を、的なものがあの人は欠落してるっぽい。

「もうちょいこう…ないもんかね…」
「何を…貴女を信頼してるからこそ特に何も言わないんでしょう」
「へ?」
「未だに小言ばかり言われているようでは成長してないってことです」

もう子供から大人へ成長するんですから、と言った木手は正直若くないと思った。若さに掛けてる気がした。
しかも大真面目な顔でそんなこと言うもんだから「ぷっ」と吹き出してしまって…当然、また睨まれた。
何だかなーやっぱり顔がフケてる所為もあるかもしれないけど、考え方までフケなくてもいいのにね…とは言わず。

「……やはり貴女にはゴーヤですね」
「は?」
「美味しいものを…と考えましたが思い直します」
「ええ!ちょっと待って!私、本気で晩御飯が…!」

たった今の出来事だよ。晩御飯無くなった瞬間って。家でのゴーヤは良いとしても…外でわざわざ食べるとか勘弁!
好きなものを適度を食べてこそ外食!嫌いなものを避けて食べることが許されるのが外食!ね、そうでしょ?
何かもう色々慌ててそりゃもう形振り構わずで木手の制服の裾掴んで謝罪し倒して…としてたら、

「……冗談ですよ。貴女、色々通じない人ですね」

今度は木手が少し笑って…何故か私の頬を撫でる。な、何だ、笑うとかいうスキルをヤツは持ってたのか?
びくびくすること数秒、とりあえず硬直することしか出来ない私をよそにフッと笑いが消えた木手が目の前に居て。
次の瞬間には視界は真っ黒。西の空に沈んでく太陽が狙撃されたんじゃないか、くらいに真っ黒になって…



-smile-

あれ?完結しないんですが…
だんだん不明内容になる木手連載(080520)


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ