LA - テニス

06-07 携帯短編
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Re:孵化するチョコレート



「おいコラ!逃げんなよ!」

どんだけの勢いで走ってやがるんだ、アイツ…ガンガン飛ばしやがって。

制服で廊下を猛ダッシュする女なんざ、そういねえだろうが。

あの日から一ヶ月、露骨に避けときながら今日まで避ける気か?

今日は…ホワイトデー、だろ?いくら何でもお返しくらいは――…

「ゆい!コラ、待てって!」

朝から短い時間をゆい捕獲に徹する。

たった10分間しかない休み時間をどんどん削られながら。

こんな時に限って、別々のクラスだということを恨む。

教室の階が違うことを恨む。こんな状況だから全然捕まりゃしねえ。

その上、アイツはここぞとばかりに卑怯な手を使って俺を回避しようとしやがるし。

「てめえ…そこに逃げんのは卑怯だろ!」

スカート集団がたむろする場所。俺が入ることがあるならば、きっと掃除の時だけ。

そう…女子トイレなんざに立てこもりやがって!コンチクショウ!

迂闊に入ることも出来ないような場所に、わざわざ身を隠すなんざ卑怯もいいトコ。

当然、そんなトコにずっと立ってりゃ変質者扱いを受け兼ねず…

仕方なく、少し離れた場所で延々と見張る。これがもう3回目の出来事。

「あーあ、手を焼いちゃってるね」

「ジロー」

「宍戸ってば余裕ないCー」

欠伸をしながらモゴモゴ言われて、それがやけに癪に障るな。

たまに起きると内輪に首を突っ込みたがる。それこそお前に構ってる余裕はねえ。

「宍戸がそんな怖い顔してたら誰だって逃げるよ」

「ああ?」

「押してダメなら引いてみな。待ってたら?」

にこにこしながら俺の腕を掴み、どこぞへと引っ張られる。

たまに起きるとアレだな。どっから出てんのか、馬鹿みたいな力を発揮しやがる。

「ゆいちゃん、亮くんは俺が屋上まで借りて行きまーす」

「はあ?」

「返して欲しかったら、お迎えをよろしくお願いしまーす」

ズルズルと引っ張られて、後向きのまま歩かされて…コケるっつーの!

ああ、もう何でこんな時に限ってこんなコトになるんだよ…



「おい、ジロー」

「んあ?」

「これがお前の言う"引き"か?」

授業サボって屋上でゴロゴロして、これでアイツが無視して無駄になったら…

間違いなく俺はキレるぜ?もう時間もねえし、こっちも余裕ねえし。

「ちゃーんとお迎えは来るよ」

「お迎えってお前――…」

「亮ちゃん!」

「ホラね」

逃げに逃げて、顔見りゃ走り去ったくせに…何ノコノコ来てんだ?

お前も授業サボることになっちまって、何やってんだよ。

「……この馬鹿が」

ようやく捕獲したゆい、今度は逃げないように強く手を握り締める。

ジローは寝転がったまま、冷やかしの口笛なんか吹いて…くそ!

コイツの言うとおりになったから文句も言えねえ。

「ほらほら、早く言っちゃいなよ〜」

ああ!こんなギャラリーいらねえんだよ。マジうざ!激うざ!

でもよ、ちょっと感謝してるぜ。絶対、礼は言ってやらねえけどな!


「……俺も、ゆいが好きだ」






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